SABAすたいる

スイスのくらし、旅のエッセイ、日々のできごと、おもうこと。

上を向いて歩こう ♪:永住権をいただきに、ニューヨーク(4)

「上ばっかりみて歩いて、穴に落っこちないように」

わたしがニューヨークに行く、というと、母はそういった。

そういわれて、10才ぐらいのとき、母と妹と三人で、はとバスに乗ったことを思い出した。

あれは、新宿の副都心、だったとおもう。

ビルをみあげては、姉妹がかわるがわる方言丸出しで、

つぎはどこへいくのだとか、

このビルは何のビルなのだとか、

大声で聞くものだから、たまりかねた母が一喝したのだ。

「おのぼりさんって、バレちゃうでしょう!」

いま思えば、はとバスに乗っている時点で、おのぼりさんも何もないものである。

が、ある意味、母は正しい。

ニューヨークで、上をみあげて歩いているのは、みんなおのぼりさんである。

そして、あのあと東京で、妹は上野動物園のキリンに気を取られて、みずたまりで尻もちをつき、東京にいくために買ってもらった新品のピンクのスカートのお尻に、おおきなシミをつくることになったのだ。

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そのような母のありがたい忠告にもかかわらず、わたしは、天にむかってそそりたつ高層コンドミニアムを、人目もはばからず見あげていた。

それもただ見上げるばかりでなく、口をあんぐり開けて。

わたしは、ニューヨークでくらしはじめたばかりの友だちが住む、コンドミニアムを訪れていた。

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地に足つけて、家事を:永住権をいただきに、ニューヨーク(3)

ニューヨーク。

それは世界一、家事のアウトソーシングがすすんでいる場所だ。

メイドが雇えるようなお金持ちだけではなく、一般的なサラリーマンの家庭でも、外部のサービスを積極的に利用している。

たとえば、ごくごくふつうのサラリーマンであるstep sonのPくん。

わたしたちが、滞在しているPくんのアパートも、そうじは、週に2回通いのお掃除スタッフさんがきてやってくれるし、洗濯はクリーニング店が、下着や靴下にいたるまでキロ単位で洗ってくれ、きちんと畳まれた状態でもどってくる。

ゆいいつごはんだけは、自分で調達しなければならないのだけど、それだって一歩出ればカフェにレストランに、テイクアウトに事欠かない。

Pくんは犬を飼っているが、散歩はドッグウォーカーがしているし、そのうち子供が生まれたらまちがいなくベビーシッターが子供の世話をするのだろう。

New York 2008 Central Park - The Nanny

ぜーんぶアウトソーシング。

その気になれば家のことなど、なんにもしなくてよい。

そのぶん、仕事や、社交や、趣味や、自分のことに100%集中できるというのは、いかにもアメリカっぽい合理的な考え方だ。

しかし、しかしである。

ここ数日、どうにもわたしは落ち着かない。

それは、単に、留守中他人に家にあがられて、そうじしてもらうのに抵抗があるということではない。

はたまた、毎朝あいさつを交わすクリーニング屋のおじさんに、わたしのパンツをたたんでもらっていると思うと落ち着かない、ということでもない。

それよりもっとこう何か、地に足がついていないような、生きてる実感がわかないような、心許なさみたいなもので、胸がざわざわして落ち着かないのである。

窓を拭いたり、アイロンをかけたり、野菜を吟味したり。

そういうことをいっさいしなくてよい生活って、はたしてどうなんだろうか?

cedar hill

そう、たとえば、家事をいっさいしなくてよい暮らし、と聞いて思いうかぶのは老人ホームだ。

93歳になる義母は、90歳になる直前にスーパーマーケットでころんで、大腿骨を骨折した。

手術を受けて、リハビリをして、退院してからは義姉の家に同居した。

そのまま寝たきりになってしまうかもしれない、ついに老人ホームを検討しなければならないか。

と思いきや、杖で歩けるようになるやいなや、義姉たちの反対を押し切って、ひとりぐらしの自宅へ帰ってしまった。

「できるかぎりは、自立して暮らしたい」

そういって、93歳になるいまも義母は、そうじ、洗濯、毎日の料理にいたるまですべて自分でこなしている。

義母にとって家事は、エネルギーを消耗するばかりのやっかいなことではなく、生きるエネルギーを与えてもらう「よすが」なのだとおもう。

そしてそれは、わたしたちにとってもそうなのだとおもう。

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週末は、グリーンマーケットにでかけてみた。

かざらない格好で、ねぎを吟味している人や、かぼちゃの重みを確かめている人。

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野の花を無造作にたばねたブーケを、つっこんだショッピングカートをかたわらに、鼻歌を歌いながらりんごを袋につめているおばあちゃん。

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そういう人たちに交じって、マーケットを何周もして、やっとこさポタージュにするバターナッツと、サラダにする根セロリとラディッシュ、ソテーする七面鳥、それからチーズをすこし手にいれた。

今日はひさしぶりに、料理だ。

地に足つけて、家事をしよう。

Dog walker near Central Park, New York City

*ドッグウォーカーは、あこがれの職業。今でも機会があれば、やってみたい。ただし、小型犬にかぎる。

ドロータはどこ?:永住権をいただきに、ニューヨーク(2)

ニューヨークでは、step son(継息子)のPくんが、独身のときに住んでいたアパートに滞在している。

去年、PくんはフィアンセのMちゃんと家を買った。

だからかれこれ一年以上、このアパートには誰も住んでいないのだけど、Pくんは賃貸にもださず、そのままキープしている。

なんだかもったいない気がするのだが、ニューヨークの不動産価格はずっと高騰しつづけているので、売却益だけでいい投資になるのだそうだ。

若いのにすごいのね。

お金のことなどさっぱり考えていなかった、わたしの30代を思い返すと、ただただ感心してしまう。

バイ・アンド・ホールド。

そうして売却益を得たら、グレードアップした物件に買い換えていく、というのを繰り返していくのだそう。

みんなやってることだから、とわたしの尊敬の眼差しを打ち消すように、Pくんは頭をヨコにふった。

それにしても、もつべきはしっかり者の「継息子」くんなのである。

おかげで、あこがれのニューヨーク、それも、かのアッパーイーストサイドで、アパート暮らしができるのだから。

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セントラルパークの東側にひろがる高級住宅街。

あのゴシップガールの舞台であり、数々のセレブが住む、あのアッパーイーストサイド。

Pくんのアパートは、そのアッパーイーストサイドにある。

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