ワオ!おめでとう!ようこそアメリカへ!
ちょっと芝居がかった、大げさな調子でそういうと、口ひげをたくわえたその入国審査官は、差し出したわたしの”移民ビザ”に、ポンッといきおいよく、スタンプをおしてくれた。
事務的なやりとりが、淡々と無表情にくりかえされるしずかな審査場に、その声はひときわ大きくひびきわたって、周囲の人が思わずふりかえるほどだった。
わたしが、グリーンカード(永住権)の申請をはじめたのは、トランプ政権が発足する直前だ。
トランプさんの移民政策の影響をモロに受けたおかげで、ここにたどりつくまで約二年かかった。
そう。
そのながくて、ややこしい道のりを思えば、頭上でくす玉が割れたって、やりすぎではなかったのかもしれない。
だから審査官の歓迎のことばは、まるでこんなふうにも聞こえた。
「魔法の国へ、ようこそ!」
呪文を合図に、魔法のとびらが開く。
そうしてわたしは、ディズニーランドの永住権でも手に入れたかのような足どりで、アメリカに「移民」として初上陸をはたしたのだった。
おなじ「移民」でも、エイリッシュの初上陸とちがって、ずいぶんのんきなものだな。
空港をあとにするタクシーの中で、わたしは飛行機のなかでみた映画の、やはり移民としてアメリカにやってきた女の子のことを、思い出していた。
映画「ブルックリン」。
アイルランド人の女の子エイリッシュは、ニューヨークのブルックリンに、たったひとりでやってくる。
1950年代のことだから、飛行機ではなく船で、到着したのは空港ではなく、エリス島だ。
続きを読む