くららの手帖

ローヌの岸辺暮らし、ときどき旅

だれのものでもないわが道:フランスの、田舎で、週末を(4)

朝ごはんのあと、でかけた散歩の途中、「売り家」の札がかかった家をみつけた。 ひとの気配が消えて久しいのだろう。 そこだけ時間が止まってしまったような、しずかな空気を全身にまとって、その家はひっそりと佇んでいた。 「私たちの家も、ちょうどこの辺…

暮らしは、アートだ:フランスの、田舎で、週末を(3)

朝。 フランスの、田舎の、朝。 パンの焼ける匂いがして、目が覚めた。 石壁に閉ざされた部屋はうす暗く、気づかなかったのだけれど、太陽はとっくの昔に顔をだし、そとは陽の光にみちていた。 あわててとび起きて、洗面所で顔を洗う。水がキーンとつめたく…

バラ色の台所:フランスの、田舎で、週末を(2)

靴をみれば、性格がわかる 歯をみれば、育ちがわかる 手をみれば、女性の年齢がわかるのだとか。 そして、文章を読めば、人柄がわかるのだとも。 みせるつもりがなくても、人となりというものは、知らずにじみ出てしまうのだから、おそろしい。 台所も、その…

”Middle of Nowhere”からの招待状:フランスの、田舎で、週末を(1)

こんどの週末、田舎の家で、いっしょに過ごさない? フランス人の友人カップルから、招待状をうけとった。 フランスの、 田舎で、 週末を。 この言葉のひびきだけでもう、うっとり、とろけてしまいそうな私である。 ここ数日など、あんまり楽しみで、なんど…

金を、継いで。

日本には、KINTSUGIというすばらしい習慣があるのですね。 そういってわざわざ国際電話をくれたのは、シドニーに住むオーストラリア人のNさんである。 KINTSUGI? さびついた脳内ローマ字日本語変換は、なかなか変換候補をみつけてくれない。 あ。 金継ぎ、…

アントネッラさんの、路地裏オステリア。ヴェネツィア、つかの間アパート暮らし

夏の終わりのヴェネツィアは、アメリカ人観光客だらけ。 経済的に幅を利かせていいはずのアジア系や、地理的に有利なはずのヨーロッパ系は、いったいどこ? そう首をかしげたくなるほど、聞こえてくるのはアメリカ英語ばかりである。 アメリカ英語が苦手なの…

救いがたき女たちの通り。ヴェネツィア、つかの間アパート暮らし

アサリのだしと、青々しいフレッシュな香りのオリーブオイルが、たっぷりからまったモチモチの手打ちパスタ。 スパゲッティ・ボンゴレを口に運びながらわたしは、いつになく、ふかーく、心から、夫に感謝しているところである。 ジュデッカ運河をのぞむ、ザ…

エイミーさんのガラス。ヴェネツィア、つかの間アパート暮らし

旅にでかけたら、あそことここに行って、これを見て、あれを食べて。もりだくさんの計画と下調べをして、朝から精力的にうごきまわって、目一杯旅を楽しむ。 むかしは、そんなエネルギーがあったけれど、いま同じことをしたら病気になって倒れてしまうかもし…

裏窓の真珠夫人。ヴェネツィア、つかの間アパート暮らし

グッゲンハイム美術館の裏手にある、静かな住宅街に借りたアパートには、最上階にちいさな屋根裏風の小部屋がついている。 居心地のよさそうなリビングルームに、ダイニングキッチン、メインベッドルームだけで私たち夫婦二人にはじゅうぶん。 この屋根裏部…

良くも、悪くも、ホンモノ

「今日の夕ごはんは、ブラスリーリップを予約しておきました」 パリで夕食をともにする約束をしていた、友人夫婦から連絡がはいりました。息子さんがパリに住んでいて、お店をいろいろ知っているからとお店の手配をかってでてくれたのです。 ブラスリーリッ…

パリソルド、まぼろしのナイトガウン

「フランス人は10着しか服をもたない」の中で、アメリカ人の著者ジェニファーが、パジャマがわりに着ていた穴のあいたスウェットパンツに、フランス人のマダムシックがギョッとする、というくだりがあります。 フランス人は10着しか服を持たない~パリで学ん…

ベルン、とある冬の日曜日の風景。未知なるスイスをもとめて。

二泊三日の母娘ミラノショートトリップ。せっかくなので帰り道はベルンで途中下車することにしました。 せっかくスイスの娘をたずねてきたのに、スイスを全く観光しないのもナンですし。 しかし、冬のオフシーズン、しかも日曜日、という二重苦のベルンです…

ミラノで発見!路地裏リストランテ。ガイドブックに頼らないレストランさがし

母がどうしても見たい!というので、予約して朝イチで見にいった「最後の晩餐」。 「人生の最後になにを食べたいか?」 そうきかれると、おあそびと承知の上でも、妙に真剣にかんがえてしまうのはなぜでしょう? 同様に「旅先で何を食べるか?」というのも、…

ヨーロッパの冬旅は、ショッピングでセンスをみがく。ミラノのドナテラ・ペリーニでプライスレスなお買い物体験。

母が日本からあそびにきました。 11月はスイスの超オフシーズンだと、何度も忠告したのにもかかわらず、です。 スイス観光のハイシーズンといえば、7月、8月のハイキングシーズンが有名ですが、もうひとつ、12月から3月までのスキーシーズンというヤマがあり…

レーティッシュ鉄道の車窓から、鉄子の血がさわぐ。山岳リゾート・アローザですごすスイスの秋(10)

トラブルというのは、いつだって「よりによって」という時と場所でおきるモノである。 アローザでの一週間のトレッキングウィークも最終日。帰宅の途についた私たちの車のエンジンが停止したのは、スイス西端にある自宅から450kmはなれた、スイス東端の山中…

ワルサーさんの同窓会。山岳リゾート・アローザですごすスイスの秋(9)

朝、ホテルのロビーで、民族衣装をきたこどもたちとすれちがった。あまりにかわいらしくて目をうばわれていると、フロントの男性が言った。 「きょうは、アローザでワルサーの同窓会があるんですよ」 ワルサー?耳慣れないことばにとまどっていると、 「じつ…

見た目にだまされた、ゴージャスな一日。山岳リゾート・アローザですごすスイスの秋(8)

人は見ためによらずというけれど、山は登ってみなければわからない。 Setaという小山にはすっかりだまされた。 この日歩いたのは、Langwies(1377m)からBlackter Fürggli (2141m)まで、800m登って800mくだる、10kmを4時間かけてあるくというコース。 La…

雲のうえには何がある?山岳リゾート・アローザですごすスイスの秋(7)

今日はヴァイスホルン(Weisshorn)山頂の展望台に行ってみようという。 空はぶあつい雲におおわれ、山はたちこめる霧につつまれているというのにだ。 こんな日に展望台?と顔に書いてあるわたしをみて、夫がいった。 「雲がひくいから、きっと山頂は快晴だ…

マーモットクリームに、バンビステーキ?山岳リゾート・アローザですごすスイスの秋(6)

トレッキングメンバーのひとり、モントレーは動物さがしの名人だ。 「あ、あそこ」 小さくささやき、モントレーが立ち止まると、その視線のさきに動物がいる。それはまるで魔法か手品をみているかのようで、わたしは動物がみたくていつもモントレーにぴった…

干し草ベッドの非情なる現実。山岳リゾート・アローザですごすスイスの秋(5)

「グリュッツィ」(こんにちは) ひときわ古くて美しい民家。窓辺のゼラニウムに目をうばわれ、写真をとっていたら、玄関からおかっぱ頭の女性が顔をのぞかせ声をかけてくれた。 「まだやってますよ、よかったらどうぞ」 ひとなつこい笑顔につられて、おじゃ…

ハダカのおつきあい、にカルチャーショック。山岳リゾート・アローザですごすスイスの秋(4)

郷に入れば郷にしたがえ、とはいうけれども、サウナに入れば全裸になれ、という地元ルールには、さすがの私もいっしゅんひるんでしまった。 ホテルクルムアローザには、谷に面して全面ガラス張りのステキなスパエリアがある。上階にジャグジーもそなえた大き…

アルプスの少女(?)ミリアムの山小屋。山岳リゾート・アローザですごすスイスの秋(3)

アローザの谷をへだてて反対側に、ミリアムの山小屋はある。 「ちょうど、アプリコットケーキが焼きあがるわよ」 注文をとりにきたミリアムがいう。あまくてこうばしい香りがキッチンから漂ってくるのにきづくと、きゅうにお腹が空いてきた。 お茶のじかんと…

神秘的な雨の森で癒しのウォーキング&毒キノコ狩り。山岳リゾート・アローザですごすスイスの秋(2)

翌朝、目を覚ますと、そとは雨が降っていた。天気予報によると、最高気温6℃、最低1℃らしい。雲なのか霧なのか境目のはっきりしないもやの中に、向こう側に見えるはずの山もかすんでみえない。 こりゃ、今日はトレッキングはキャンセルかな?ホテルで1日のん…

名物トレッキングガイド・ハンスとの再会。山岳リゾート・アローザですごすスイスの秋(1)

9月末は、スイスの夏が終わりをつげる季節だ。夏のあいだフル回転で営業してきた山岳リゾートのホテルも、冬のスキーシーズンまでいったん店じまいするところが多い。 9月下旬になると、つめたい雨とともにストンと気温がさがり、空気がすっかり入れ替わった…

ストーリーあるモノのチカラ。大伯母の古時計のルーツをたどるショートトリップ。

ウォーキングの途中、ローヌ川から丘にのぼる坂道で、ある朝、ヨボヨボのおじいさんをみかけた。 ゆっくり、ゆっくり一歩ずつ。アディダスのブルーのジョギングパンツから伸びた脚は、夏の終わりだというのにすきとおるように白くて細く、カラフルなスポーツ…

チューリッヒ湖に浮かぶミステリアスなお城。ラッパーズヴィルで「ジャーニー」する

前回おはなしした、姪っ子Rちゃんのスロウすぎる結婚式。すっかり書きそびれたのが、二人が結婚式を挙げたチューリッヒ湖畔のちいさな街ラッパーズヴィルのこと。 新郎のC君がうまれ育った街であり、C君はここの警察官、Rちゃんは薬剤師として薬局を経営して…

靴箱でモジュール化?海外旅行スーツケースのパッキング術。

バーゲンで狙っていたエスパドリーユ。なんと、奇跡的に私のサイズが残っていたのですかさず購入した。 石畳のヨーロッパの街でも、エスパドリーユならヒールが高くても楽々歩けるので、夏は毎日エスパドリーユを履いている。愛用していたものが、ちょっとく…

冷たい温泉がおしえてくれた、期待しないでハッピーになる方法。

なにごとにも期待しなければ、心穏やかに日々を暮らせます、とお坊さんの本で読んで、なるほどと思ったのだけれど、実践するのはなかなかむずかしい。 友達なら心配してくれるはず、彼氏なら即レスくれるはず、母親なら喜んでくれるはず、というような人間関…

やわらかな水の国、ニッポン。京都町家で暮らす一ヶ月

雨が屋根をたたく音で目が覚めた。木造家屋は、外の空気をかんじられるのがいい。 気密性のたかい鉄筋コンクリートは、防音や断熱に優れていてとても住み心地がよいけれど、こういう情緒を感じられるのはやはり木造家屋だ。 夫は昨晩の夜更かしがたたったか…

安くてもたのしいモノ。宇治の骨董屋で「夢を買う」。京都町家で暮らす一ヶ月

宇治のお寺の参道にあるちいさな骨董屋の、戸棚にひとつだけちょこんとならべられていた染付のそばちょこ。 他のものを購入して、さぁ帰ろうとふり向いたとき、ふと目が合ってしまったのだ。 灰色がかった落ち着いた白地に、スモーキーな藍色のやわらかな筆…