くららの手帖

ローヌの岸辺暮らし、ときどき旅

ホフマンの手と、森と金貨と。

義兄のクリストフが、ランチに仔牛のパイ包みを焼いてくれた。切りわけるクリストフのがっしり肉厚な手をみていて思いだしたのは「ホフマンの手」だ。 フェリックス・ホフマンは、わたしが幼いころボロボロになるまで読んだ(かずかずの)絵本の作者である。…

夫婦げんかは「夜の庭」で。

「Jardin de nuit (夜の庭)」という題名の絵を額装にだしていたのが、出来上がってきた。これはわたしが好きなスイス人イラストレーター・アルベルティーヌさんの絵で、昨年のクリスマスにRがプレゼントしてくれたものだ。 アルベルティーヌ さんは詩的なス…

めでたし、めでたし。

狼山パン店は、Rの古い知り合いがはじめたパン屋で、いまは息子さんが店主をつとめている。狼山というのは、Wolfisbergというその一家の苗字なのだ。川向こうにあるこのパン屋には、だから、ではなく、パンが美味しいのでときどき歩いて買いに行く。併設のカ…

サムシング・レッド

お祝いごとがあると、その本人が周りにケーキやお酒をふるまう。誕生日の本人が、職場や学校にケーキを持っていくなんておもしろいな。日本ではあまりみられない習慣に、さいしょは「へぇ」と思った。 でもあるとき、バースディ・ケーキを配っていたクラスメ…

失われしパンと猫

郵便物をとりにアパートのエントランス・ホールに降りてゆくと、掲示板の前で管理人のサントス氏が仁王立ちしているところだった。その視線の先にあるものは、みなくてもわかった。中央に猫の写真が印刷された貼り紙である。この貼り紙にはわたしも、数日前…

借りぐらしの住人たち

この週末、引っぱり出して読んでいるのは、メアリー・ノートンの「床下の小人たち」だ。 人間から必要なモノを「借りて」、古いお屋敷の床下に暮らす小人の一家を描いた児童文学の名作。スタジオジブリの映画「借りぐらしのアリエッティ」の原作である。 き…

絵本の中のクニット君と、リアルのクニット君のお話。

ムーミンシリーズ全9巻を、読み終わった。 読みはじめたのは、東京でムーミン展に行ったとき。 アニメは子どものころさんざん観たものだけれど、そういえば小説は読んだことがなかったな、と思いたってからだから、かれこれ一年以上もかかってしまった計算に…

おしゃべりな猫

そとを出歩く時間がへったぶん、ベランダですごす時間がふえた。 「キャンドルの木」とよんでいる、マロニエの木が芽吹きはじめたなぁとおもったらもう、いまではそのキャンドルが花をつけている。 ベランダでごはんを食べたり、本を読んだりしていると、そ…

世にも美しい図書館が、教えてくれたこと。

どうして本を読まないといけないの? 夏休みがはじまる前、10歳になる甥っ子が不服そうに口をとがらせていた。 マンガだって、テレビだって、ゲームだっておんなじだよ。 どうして本じゃなきゃいけないの? そう問いつめられた妹は、困りはてていた。 「ため…

賢者の贈りもの、嵐のあとに。

6月もなかばをすぎると、スイスの短い夏のはじまりを告げる、ちいさな嵐がやってくる。それは、あっという間にやってきて、あっという間に去ってしまうのだけど、ちいさいからといってあなどれないパワフルさで、わたしたちをおどろかせる。 はじまりは、こ…

CAREにはじまり、CAREに終わる。ロンドン、ジュリアナズ・キッチンのアフタヌーンティ

ロンドン郊外。 地下鉄を、セントジョンズウッドの駅で降り、地図をたよりに道をたどっていくと、すぐにあたりは閑静な住宅街になる。 イギリスらしい、古くてかわいい家がならぶ通りを、行きつ戻りつしていると、屋根を修理中の職人さんが、ハシゴをおりて…

大蛇ボアの話が、できるおとなに。

ごく親しい人たちとの集まりは別として、いわゆる社交というものが、あまり得意ではない。 が、得意だろうが苦手だろうが、年末年始の社交シーズンとなると、重い腰を上げねばならぬのが大人、というものである。 先日も、でかけていった集まりで、六年ぶり…

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一滴の雨も降らない、かんかん照りが二週間ほどつづき、湖の花火大会が終わるころになると、こんどは夕立ちとかみなりが毎夕やってくる。 雨は、ひと夏ぶんの熱をはらんだ地面や、屋根や、木々や、空気や、人々の日焼けした肌に降り注ぐ。 一日、また一日と…

救いがたき女たちの通り。ヴェネツィア、つかの間アパート暮らし

アサリのだしと、青々しいフレッシュな香りのオリーブオイルが、たっぷりからまったモチモチの手打ちパスタ。 スパゲッティ・ボンゴレを口に運びながらわたしは、いつになく、ふかーく、心から、夫に感謝しているところである。 ジュデッカ運河をのぞむ、ザ…

良くも、悪くも、ホンモノ

「今日の夕ごはんは、ブラスリーリップを予約しておきました」 パリで夕食をともにする約束をしていた、友人夫婦から連絡がはいりました。息子さんがパリに住んでいて、お店をいろいろ知っているからとお店の手配をかってでてくれたのです。 ブラスリーリッ…

パリソルド、まぼろしのナイトガウン

「フランス人は10着しか服をもたない」の中で、アメリカ人の著者ジェニファーが、パジャマがわりに着ていた穴のあいたスウェットパンツに、フランス人のマダムシックがギョッとする、というくだりがあります。 フランス人は10着しか服を持たない~パリで学ん…