SABAすたいる

スイスのくらし、旅のエッセイ、日々のできごと、おもうこと。

よい旅は人生を豊かにする。アボリジニの村からインスピレーションのおすそわけ

http://www.flickr.com/photos/12626159@N05/4852493497 

photo by eyeweed

アボリジニの村にいるともだちからひさしぶりにメールが届いた。

あれはたしかクリスマス前だったから、彼女が医療支援 のために、シドニーからさらに丸一日かけて、はるかかなたのその村にたどり着いてから、かれこれ二ヶ月になる。

ながいながいメールには、村での生活のこと、医療現場のしごとのこと、彼女がそれにどう向き合っているか、何を感じたかといったことがつづられていた。

交通 も通信手段 もおそろしいほど限られている上に、治安がわるいので自由に出かけることもままならない。39度を超える暑さの中、 川で泳ごうにもワニが生息しているのでそれもかなわない。

昼間は同僚といっしょでも、夜になるとひとり部屋で夜をすごすしかない。夫とも友達とも離れて三ヶ月のプロジェクト。やりたい仕事のために自分がえらんだ道とはいえ、こうしてひとりすごす時間にさびしさや孤独を感じないといったらうそになる。

けれど日常生活でさらされているさまざまな雑音から解放されて、神経が研ぎ澄まされているせいか、アボリジニのスピリチュアルな雰囲気のせいか、いろいろなことを鋭敏に感じることができるような気がして、自分自身にゆっくり向き合い、心の声に耳をかたむけて、ひとりの時間をすごしている。

とメールは結ばれていた。

メールには二枚の写真が添えられていた。三ヶ月のあいだ離ればなれに暮らす夫へのおみやげなのだそうだ。(それにしてもなんと理解のある夫なのだろう‥)

彼女がこの写真をみてかんじたことを読んでいたら、この旅が彼女の内面をどれだけ豊かにしたのだろう、とはっとした。

1枚目の写真のタイトルは、ローンスイマー(独り泳ぐひと)。

オーストラリアの ユージンタンというフォトグラファーの作品で、上空から俯瞰する構図で画面いっぱい広がる透明なブルーの海に、ポツンと豆粒みたいな人間がひとり泳いでいる。

"ひとにはそれぞれ人生の中でひとりぼっちで先に進まなきゃいけない時がある。孤独の中でこそ学べることがあって、孤独を知っていればこそ、支えられたり愛されたりすることが素晴らしいって感じることができるんだなってこの写真をみて思ったの。"

もう1枚の写真は、やはり同じ写真家の作品でレイヤーズというタイトル。上空から海岸に打ち寄せる波の層を捉えた構図に、砂浜にはぽつんと小さな鳥と女性がいる。

"ダイナミックでパワフルな美しい海のほうばかりに目を向けがちだけど、どんなに素晴らしい海でも打ち寄せる海岸が必要だってことを忘れちゃいけないと思うんだ。これって恋愛にも言えることだよね。"

旅は、A地点を出発して、B地点に到着し、出発地点に帰ってくるものだ。でも全くおなじA地点にもどってくるわけじゃない。ひとは旅のなかで、いろいろな体験をしたり、ものをかんじたり、考えたりして変わる。だから、旅の前と後とでは、その人は全くおなじその人じゃない。

旅から日常にもどる、というけれど、実際には、出発前とはすこし違った日常になっているはずだとおもう。もどってくるのは、物理的にはおなじアパートの部屋だったとしても‥。だからこそ、旅は暮らしを、人生をゆたかにしてくれるんじゃないかな、と思う。

とおくはなれていても、こんなふうに、彼女が、この旅から得たインスピレーションをおすそわけしてくれたことがなんだかとてれしくて、写真をながめながら、しばし地球の裏側にいる彼女に想いをはせたのだった。

ユージン タンさんのギャラリー

http://www.aquabumps.com