今日はスキーバケーションの話をすこし。
スイスは、山だらけの国だけあって、気軽に日帰りでスキーが楽しめる。
なので、スキーだけのためにとくに休暇をとる必要はないんでは?と思うのだけれど、みんなシーズン中にすくなくとも1週間程度のスキーバケーションにでかける。
(たぶん、スキー、というのは口実で、ただバケーションに出かけたいだけなのだ。その証拠に、スキーリゾートには行くけれどスキーはしない、という人もたくさんいる)
わたしたちが先日滞在したのは、エンガディン地方の小さな村、Scuol。スイスの東の端っこにある山村だ。
スイスの西の端っこの我が家からはなんと車で七時間。途中の道路が冬季は封鎖されているため、車ごと電車で運んでもらったりして(写真下)やっとのことで辿り着いた。
地理的にアクセスがわるいのにくわえて、話されている言葉はスイス人口の0.5%未満しか話さないロマンシュ語、というのも、よりいっそう秘境感を高めている。
石畳の狭い道をくだっていくと、小さな石造りの家がならぶ旧市街に出た。エンガディンの家は、みな石造りで、独特の壁装飾がほどこされている。家々の窓には手編みの白いレースがさがっていて、人影はなくひっそりとしていた。
1軒のちいさな家のまえで「あ、ここだ」と夫がいうのでみあげると、”ホテルエンガディナ"と看板がさがっている。他の家々とおなじく伝統的な石造りの壁に装飾、室内にはいると、この地方のそぼくな木製の家具が暖かい雰囲気でむかえてくれた。
「ちょうど午後のお茶とケーキのサービスがはじまったのでよかったらどうぞ」とほっぺの赤い健康そうなレセプショニストがすすめてくれたので、食堂にむかうと、大きな木のテーブルに、素朴なりんごのタルト、洋梨のケーキ、アプリコットのパイがならべられていた。
好きなだけ自分でカットして皿にもり、カフェオレと甘いケーキで一息つく。
それにしても静かだ。そもそも人がいない、というのもあるけれど、言われて気がついたのが壁の厚さだった。
窓枠がはまっているところをみると、もしかしたら1メートル?という厚さなのだ。きびしい寒さを遮断するためなのだろうか?なにしろこの壁のせいで、部屋ではWi-Fiがつながらなかったほどである。
さきほどのレセプショニストが、カフェオレのおかわりをつぎにきてくれ、ディナーのことですが、と申し訳なさそうに言った。朝食のときまでにディナーの予約をいれることになっているそう。なので、今日のディナーはどこか外で、ということなのだった。
ところでこのレストラン、ホテルの素朴な雰囲気からの予想に反して、とても洗練された料理を出すのでびっくりした。しかも席数が小さい上に完全予約制なので、きちんと手間ひまかけて作りました、という味なのだ。
メニューはコースのみで、品数や種類が選べる。鹿肉のワイン煮にレッドベリーのソースを添えたものや、サルティンボッカ、チーズフォンデュなど、シンプルだけれど、どれも滋味があっておいしい土地の味が楽しめる。
デザートや前菜もどれもていねいにつくられていて、サービスもあたたかくフレンドリー。宿泊客以外にそとから予約してやってくる客も多く、ほとんどいつも満席だったのもうなずける。
ちいさなホテルで、だいたいの客が、スキーバケーションで週末にチェックインして次の週末にチェックアウトするというパターン。毎日食堂でおなじ顔ぶれに顔を合わすことになるので、自然に顔なじみになる。
赤ちゃん、おじいちゃん、おばあちゃんを含め総勢8人で滞在していたファミリーや、子供連れのカップル、初老のカップル、ティーンエイジャーみたいな若いカップル、そして私たち。
旧式のストーブが残された食堂で、和気あいあいとテーブルを囲んでいると、なんだか大家族で山小屋で暮らしているみたいで楽しかった。
スタッフもほどよくフレンドリーで気取ったところがなく、居心地のよいわが家のようなホテルなのだった。
さて、翌日の朝ごはん。
昨日とはべつの、ほっぺの赤い健康そうな女性スタッフが、寝坊した私たちのために、あたらしく焼きたてのクロワッサンを用意してくれた。地元の新鮮なチーズやハム、たまご料理にヨーグルトやフルーツを好きなだけ皿にとる。典型的な山の朝ごはんがおいしくてもりもり食べる。
そとを行くスキー客をながめながら、朝日がさんさんとさしこむ窓ぎわの特等席で、あつあつのカフェオレをのんびり味わっていると、からだがバカンス仕様にゆるゆるとほどけていくのをかんじた。
ゆっくり、好きなように、したいことだけするのがバカンス。
あわてず、のんびりすごそう。
スキー、隣村へのハイキングなどの様子は、また明日!
ホテルエンガディナのWebsite