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SABAすたいる

スイスのくらし、旅のエッセイ、日々のできごと、おもうこと。

スイスの秘境でスキーバケーション(2)標高3,000メートル級のスキー場にて恩師のことばをかみしめる

山のバカンス スイスのくらし

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ホテルを出て右に折れるとすぐに村の広場にでる。スキー場にはこの広場からバスに乗って向かうのだ。

広場の中央にある水くみ場で、お手伝いを頼まれたのか男の子がバケツに水をくんでいる。もう昼近くだからか、バスを待っているのは私たちのほかに二組だけ。

近くの農家からはヤギの鳴き声と首にかけられた鈴の音が風にのって聴こえてくるのどかな雰囲気である。ゆうべ一晩中、時を告げる鐘をならしていた教会の時計が、十一時を打った。

バスは途中、ホリデーハウスやアパートメントのあいだを縫うように、スキー客を拾いながら進む。こうしてみると、この地域がスキー場を中心にかなり大規模に開発されていることがわかる。

村の中心は昔ながらの山村なのに‥。秘境、秘境と言っていたのを撤回しなければと思わされるほどだ。

二十分ほどバスにゆられると、Scuol スキーリゾートのゴンドラステーションについた。1週間分のパスを購入し、ゴンドラで一気に中腹駅までのぼる。ちなみにScuolの標高は1250メートル、この中腹駅が2140メートルである。

しばらくその周辺ですべった後、さらにリフトをのりついで、このスキー場の2つある山頂のうちのひとつChampatschまでのぼってみることにした。

Champatschの標高は2783メートル。周囲は3000メートル級の山が連なっている。

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ここまでくると、なんとなく空の青さがちがう。空気もうすいような気がする。夫やだれかが話す声も、なにかに吸収されているみたいにうっすらとしか聞こえない。まるで宇宙にいるみたいな気分になった。

人もまばらでひろびろしたゲレンデは、私みたいな初級者でもすべりやすい。吸い込まれそうな青空と、周りの山々を眺めなら気持ち良くすべりだした。

ところがどうしたことか、すこしすべるとすぐに息があがってしまう。長いコースをいっきにすべりたいのであろう夫には申し訳ないけれど、途中途中で立ち止まってもらわなければならなかった。

さらに何本か滑るとこんどは、朝食をしっかり食べたはずなのに、なんだかお腹がすいたような、気持ち悪いような、車に酔ったような気分がしてきた。

そう、さっき「空気がうすい気がした」のは気のせいではなかったのだ。たぶんこれって軽い高山病。

(と、このことに気づいたのはホテルにもどってからのこと。その時は、単なる日頃の運動不足と体調不良だと思っていたのだった)

標高2,000メートルを超えるあたりからその可能性が出てきて、3,000メートルあたりではかなりの人に影響が出てくるらしい。本格的な登山とか、展望台に一気に上がる時ならまだしも、まさかスキーで高山病なんて思ってもみなかった。

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とにかくそういうわけで、あと一本山頂から滑ったら、ちょっと早いけど山を降りよう、ということになった。

ところでこの山頂行きのリフト。ふつうのリフトみたいに座る椅子がない。T字リフト、というワイヤーのさきっぽに棒がぶら下がっているだけのものだ。

二人でつかう場合には両側からそれぞれワイヤーに片手でつかまり、棒の半分をおしりにあてる。

こしかけてはいけない、あてるだけだ。スキーで地面にたったままなにもせず、ワイヤーと棒にみちびかれるがまま滑って登っていく。こんなの簡単、と皆はいうけれど、わたしはこれが大の苦手である。

この日すでに何本も乗っていて大丈夫だったので、あと一本も何とかなるとおもっていたのが間違いだった。

何を思ったかストックを持ちなおそうとした瞬間、ストックが脚にひっかかった。あっというまにバランスをくずし、スキーが交差するのが見えた。と思った瞬間、みごとにリフトから落ちた。

気づくと脇の圧雪されていないやわらかい雪の土手にすっぽり体ごとはまっていた。顔をあげると、スキーの板が外れてかなたにあるのがみえ、巻き添えをくった夫が足元に転がっているのがみえた。

だいじょうぶですか?

と声をかけてくれたのは、すぐうしろから来ていた小学生ぐらいの女の子。ひとりでさっそうとスノボに乗り、真剣にこちらを心配してくれている。

ありがとう、だいじょうぶ。

大人ふたり転がっているのを器用によけてくれた彼女のおかげで、リフトを止めるという事態にはおちいらずにすんだのだった。

さいわい二人とも無傷。自力で腰までの雪をかき分けながら歩いて脱出し、無事ゲレンデにもどることができた。その一部始終を、リフトで通り過ぎる人々に目撃され、声をかけていただいたのはかなり恥ずかしかったけれど‥。

翌日、おなじリフトに乗ったら、なんとその場所に、私のひと型がそのまんま残っていた。

あまりにも芸術的だったので、写真を撮りたかったのだがやめておいた。いくら温和な夫でも、同じあやまちを二度繰り返したらキレるにちがいない。。

スキーも危険なスポーツ。

疲れるとけがもしやすいので、つかれる前にやすみましょう、としつこかった高校時代の体育教師のことばを、スイスの山奥でかみしめた一日だった。

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