くららの手帖

ローヌの岸辺暮らし、ときどき旅

ご近所さんにコンニチワ。旅先で髪を切る。京都町家で暮らす一ヶ月

バケーションレンタル、といっても、ハワイなどの大規模リゾートのそれと違って、今回の京町家にしても、パリで借りたアパルトマンにしても、隣人は日常を暮らしている地元の人々である。

入れ替わり立ち替わり見知らぬ人が出入りする、というだけでも落ち着かないのに、やってくるのはバカンス気分に浮かれたハイテンションなツーリストばかり。ご近所さんにとっては、まったく迷惑なしろものなのじゃないかと想像される。

数年前にパリのアパルトマンを借りたとき、到着して鍵を開けようとしているところへ、隣人のおばさんが通りがかった。早口のフランス語でばーっとまくしたてられたのだけれど、とにかく「うるさい」と文句を言っているらしいことはわかった。

フローリングの床なので足音がひびく、クローゼットの開け閉めの音がひびく、クーラーがないので窓を開けていたりすると話し声もつつ抜けなのだ。

足元のスーツケースを指差して、私たち今着いたばかりなの、と説明を試みるが、おばさん的にはここが短期滞在用に使われているということすら飲み込めていない様子。とにかく「心配しないで。私たち、きをつける。静かにする。約束する」と言うと、おばさんもしぶしぶ帰っていったのだが、おばさんの気持ちはすごくわかるので気の毒に思った。

私だって、今の自分のアパートの隣にそんなものができ、わけのわからない外国人ツーリストが出入りしはじめたら嫌だもの。。

というわけで、せめて騒音やゴミ出しなど、一般的な住民としてのマナーは守ろう、そして全ての人間関係のはじまりはあいさつから、あいさつぐらいはちゃんとしよう、と心に誓ったのだった。

まずはゴミ出し。私も夫も長年、ゴミ出しは24時間いつでもOKなアパートに住んでいるので、ゴミの種類によって決まった曜日の早朝にゴミ出ししなければいけない、というのは最初けっこうキツかった。

と同時にちょっと新鮮でもあった。ルームウェアにつっかけ姿で寝ぼけまなこをこすりつつ、ご近所さんにあいさつしたり、途中のパン屋さんで通勤途中にパンを買う人の列にならんだり。

2週間をすぎたころ、ちかくのオフィスビルのガードマンさんがにっこり笑って「こんにちわ」とあいさつしてくれるようになった。毎日のように行き来していたので顔を覚えてくれたもよう。ちょっとうれしい。

ところで。夫はよく旅先で床屋に行く。最近でいうと出張でいったサンパウロ、夏休みにいったハバナ。そういえばハワイでも行っていた。

それも歩いていて急に「髪切っていい?」と、てきとうに通りがかった床屋に入る。ただの無頓着なんだか、チャレンジャーなんだかわからないけれど、なんとなく自由でうらやましい。

たいていかなり庶民的なお店で、私は待っているあいだ、床屋さんの地元のお客とのやりとりや日本とは違う手順を観察したり、窓の外を行き来するひとびとのようすを眺める。

外の通りを歩いているだけでは見えない、ひとびとの暮らしの内側にはいりこんだ感じがして、けっこうおもしろい。

それで、夫は今回も到着してからずっと「髪切りたい」と言っていたのだけど、まず驚いたのがこのご近所さんにある床屋さんの数。いわれてみると、ほぼ50mおきに1軒はある。ちょっとおしゃれなところから、昔ながらのところまでよりどりみどり。

そんな中から夫が選んだのは、通り掛るたびにお客が誰もいず、おじいちゃんの床屋さんが、暇そうに窓辺のいすにこしかけて新聞をひらいていた、借りている家からいちばん近くのお店だ。

時刻は閉店30分前。なんと今日にかぎってお客さんがひとり。おじいちゃん忙しそう。「今から切ってもらえますか?」ときくと、ちょっとためらいつつも「いいよ」とにっこり。よかった。

言葉が通じないところでいつもするように、身振り手振りで希望を伝える夫(スイス人)。

「オッケー。カット、カットね」とおじいちゃん。

日本人の髪は、海外の美容院ではかたすぎてハサミが痛むので嫌がられるとか、ハサミがちゃんと研いでないところではうまく切れないとか聞く。反対に日本の美容院で夫のようなふわふわ、やわやわ、くるくるな西洋人の髪を切るのって大変なのかしら?と思って聞いてみると「全然問題ないよ。大変なのはことばが通じないことだけだね」とのこと。

観光の中心地からはすこしだけ外れている場所なのだけど、それでも最近は外国人ツーリストが切ってくれとやってくるのだそう。

奥さんやもうひとりのお客さんもいっしょになってあれやこれやおしゃべりするうちに、無事カットは終了。

顔剃りしようとするおじいちゃんに、夫が必死の形相で「ノー!」というのでみんなで面白がる。ノーの理由が「カミソリが怖いから」だったので。。「また来てねー」と送り出されて店を後にする。

後日、近所のスーパーに行く途中、床屋さんの奥さんに道でばったり会った。おぼえていてくれて「こんにちわ」とあいさつを交わした。ただそれだけだけど、なんとなくご近所さんにお近づきになれた気分がして、ちょっとうれしい。

ピーターメイルの南仏プロバンスの12ヶ月みたいに、ご近所づきあいを楽しめたらいいなぁと憧れるものの、一ヶ月はあまりに短すぎる。でもこんなかんじのプチご近所気分なら、短期の旅行でも味わえる。

旅先で髪を切る。私もいつか挑戦してみたいなぁ。

これはハバナの床屋さん。

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