くららの手帖

ローヌの岸辺暮らし、ときどき旅

やわらかな水の国、ニッポン。京都町家で暮らす一ヶ月

雨が屋根をたたく音で目が覚めた。木造家屋は、外の空気をかんじられるのがいい。

気密性のたかい鉄筋コンクリートは、防音や断熱に優れていてとても住み心地がよいけれど、こういう情緒を感じられるのはやはり木造家屋だ。

夫は昨晩の夜更かしがたたったか、まだ当分起きてくる様子がない。今日は予定もないし、この雨だ。ゆっくり家で過ごす一日になりそうだったので、たまにはゆっくり朝風呂にはいることにした。

お風呂には大きな窓がついていて、湯船につかると坪庭が目に入る。軒先から落ちる雨のしずく、つくばいに波紋をひろげる雨粒、濡れてつやつや艶めく植木のみどり。やわらかな雨の音。

日本の水はしっとり、やわらかくていいなぁ、としみじみ思う。

ちなみに、自宅のあるスイスの水道水も、日本にも負けないくらい良質だとおもう。おおきな違いは、ヨーロッパの水は硬水だということだ。

以前にパリでお茶をいれようと水道水を沸かしたら、ティーカップのお茶の表面に膜がはってびっくりしたことがある。ちょっと放っておくとすぐに石灰がやかんやなべにこびりつく。髪の毛もくしが通らないくらいばさばさになって困った。

それに比べれば、スイスの水道水は格段に良い。いったん慣れてしまえば特に不都合は感じないで済む。軟水化する機械も、浄水器もつかわず、料理にもお風呂にも、そのまま水道水をつかっている。

ところが、である。今回、一ヶ月と長めの日本帰国をしてみたら、その歴然たるちがいに気づいてしまったのだ。

まず、夫が「肌がもちもちになってきた」と言い出したのがはじまり。私の髪の毛もさらさらつやつやになってきた。

料理にしても、ごはんやお味噌汁が甘みがあっておいしいのは、炊飯器やみそ、お米が違うからだと思っていたのだけれど、それだけではないらしい。軟水で料理するとぜんぜん違うのだそうだ。ごはんは甘く、ふっくら炊けるし、お出汁もよくでる。

反対に、パスタやシチューなどは、硬水のほうが美味しくできるのだとか。単純にどっちがいい、悪い、という話ではないのがおもしろい。結局、料理は、その土地の水で作るのがいちばん美味しいようにできている、ということなのだ。

日本に住むイギリス人が「日本の水道水のほうが良質だけど、紅茶はロンドンの水道水でいれたほうが美味しいよ」と豪語していて、そのとき私は本気にしなかったのだけれど、案外本当なのかもしれない。

やわらかいお湯に浸かり、やさしい雨の音に耳をすましていると、髪や肌ばかりか、気持ちまでうるおってくる。お米やお茶だけでなく、人間だって、生まれ育った土地の水がいちばん馴染むというもの。。

などと考えながら風呂からあがると、起きてきた夫があわてて「お湯、抜かないで」という。これまでどんなに勧めても「シャワーでいい」とかたくなだった夫(スイス人)なのに、すっかり「お風呂派」になってしまったのだからすごい。

素晴らしきかな、やわらかな水の国、ニッポン!

それにしても、、こんなに甘やかされた体でスイスに帰るのがこわい。

移住したばかりのころ、全身発疹とかゆみにおそわれ、皮膚という皮膚が魚のウロコみたいになったことがあったのだ。

ウロコがぜんぶ剥がれて、皮膚の再生がおわると自然におさまったのだが、今おもうと異なる気候風土に順応するための防御反応だったのかもしれない。

となると、あの時、私の肌はヨーロッパ仕様に脱皮したはずなので、こんどは大丈夫だとおもうけれど。。。

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photo by kabun