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SABAすたいる

スイスのくらし、旅のエッセイ、日々のできごと、おもうこと。

名物トレッキングガイド・ハンスとの再会。山岳リゾート・アローザですごすスイスの秋(1)

9月末は、スイスの夏が終わりをつげる季節だ。夏のあいだフル回転で営業してきた山岳リゾートのホテルも、冬のスキーシーズンまでいったん店じまいするところが多い。

9月下旬になると、つめたい雨とともにストンと気温がさがり、空気がすっかり入れ替わったようにきゅうに秋の気配をかんじるようになる。

それでも、灰色の空に閉じ込められる冬はまだまだ先。

インディアンサマーといわれる夏のぶり返しのような日があったり、秋らしい晴天の日もあったりして、ハイキングもぎりぎり楽しめる季節である。

そんな夏の終わりであり秋のはじまりの先週、私たちが遅ればせながらの夏休みでむかったのは、グラウビュンデン州の山岳リゾートアローザだ。

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*真ん中がアローザの旗。実際こんな形のふたご山があって太陽もこんなふうに見える。右はグラウビュンデン州の旗。

ハイジで有名なマイエンフェルトや、経済会議で知られるダヴォス、高級リゾートサンモリッツなどが近いといえば近く、州都のクールからはレーティッシュ鉄道で1時間弱でたどりつける。

駅からすこしのぼったところにある、老舗の五つ星ホテルクルム。毎年夏のシーズン最終週に、一週間のトレッキングパッケージが企画されている。

「なんとなんと!また会えましたね!」

と、ウェルカムレセプションですこしおどろいた様子で迎えてくれたのは、この企画にその名を冠する名物トレッキングガイドのハンスだった。

じつは私たち、去年にひきつづき今年が二回目の参加である。義姉夫婦がさそってくれてはじめて参加した去年、とてもよかったので、ことしも二夫婦そろっての参加することになったのだ。

なにも同じ場所をリピートしなくても、、とつい目新しいほうに目がいってしまうわたしだが、参加者のなかには

「あら、わたしは14年ぶりに参加よ」

というさらなるツワモノマダムがいた。なんと彼女は二度ならず、かぞえきれないほど参加している筋金入りのリピーターなのだった。

1年ぶりに再会したハンスは、あいかわらずファッショナブルだ。派手なジャケットのポケットからハンカチーフをのぞかせ、カラフルなシャツとパンツでキメている。たしか70代になっているはずなのだけど、とてもそんな風にみえない。年をとったら地味な色ばかり着てちゃダメ、というのは本当だなとおもう。

ちなみにトレッキングウェアもめちゃくちゃお洒落。毎日、ちがう全身キメキメのコーデでさっそうと登場するさまは、まるで芸能人のようだ。

ワイングラス片手に、日焼けなのかアルコールのせいなのか不明な赤ら顔で、参加者のなかを愛想をふりまきながら渡り歩いている姿は、ただのちょい悪なおじさんなのだけれど、じっさいのところ、ハンスはヨーロッパの有名政治家やセレブをガイドしたりもするスターガイドらしいのである。

ガイドとして優秀なのはもちろん、見た目にも気を配るプロ意識やキャラ立ちした人柄が、彼を人気ガイドたらしめているのだろう。二十人ちかい参加者の中には、ほかにもハンス目当てのリピーターが何人もいた。

ところでこの二十人、という参加者数は、今回予想外だったことのひとつ。なぜなら去年はたったの七人。しかもうち五人はわがファミリー(義姉夫婦と義母、それに私たち)で、ほとんどプライベートツアーみたいなものだったからだ。

思いがけず外国人だらけ(私目線でいうと)の団体ツアーに参加することになってしまい、めんくらっているうちに、

「明日のトレッキングについて、ミーティングはじめます」

というので、ぞろぞろと団体にくっついて会議室に移動する。

これから一週間、毎晩、翌日のトレッキングルートについてミーティングがあるのだ。初球、中級、上級のコースが用意されていて、参加者は体調などをかんがえて好きなコースを選べる。

外国人は私ひとり。私以外は全員、やっかいなスイスドイツ語を話すひとびとである。当然ミーティングはスイスドイツ語ですすめられる。

私はふだんスイスフランス語圏に住んでいるのでスイスドイツ語はさっぱりわからない。(といって、フランス語が理解できるわけでもないが)

もちろん、内容は夫や姉夫婦が理解しているので、実際問題こまることはないのだが、なんだかひとりぽつんと取り残されたようで、初日からものすごいアウェイ感におそわれるわたしであった。

さきほどの筋金入りリピーターのマダムは、息子ふたりと嫁(たぶん)の四人と犬一匹で参加していて、私たちのちょうど前の列にならんで座っていた。

ハンスがなにか冗談を言ったらしく、みながどっと笑い声をたてた。

ふと目があった犬と、わたしだけが笑っていないのに気付き、仲間意識をもちそうになってしまう。

が、よく考えてみたら少なくとも犬は主人の命令は理解しているわけなので、スイスドイツ語レベルはわたしよりも上なはずである。

ハンスの冗談だって理解していたのかもしれない。そう思ったら、わたしは犬以下か、とよけい悲しくなってしまった。

それにしても高級そうな犬である。大型の狩猟犬で、エルメスのバッグをおもわせるグレージュの毛なみはつやつやだ。ひとみの色までおなじグレージュときた。会議中もおとなしくじっと飼い主の足もとに座っている。じつにかしこそうな犬なのである。

じっと見つめ合ううち、まぁ、この犬になら負けてもしかたがないかという気分になったのだった。(つづく)

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http://www.arosakulm.ch/en/

*五つ星といえどシーズン最終週ということもあって、価格はリーズナブル。7泊夕朝食+トレッキングガイドツアー6日+スパ+マッサージまでついてひとり12万円くらい。

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