くららの手帖

ローヌの岸辺暮らし、ときどき旅

ハダカのおつきあい、にカルチャーショック。山岳リゾート・アローザですごすスイスの秋(4)

郷に入れば郷にしたがえ、とはいうけれども、サウナに入れば全裸になれ、という地元ルールには、さすがの私もいっしゅんひるんでしまった。

ホテルクルムアローザには、谷に面して全面ガラス張りのステキなスパエリアがある。上階にジャグジーもそなえた大きなプール、下階にはサウナとマッサージルームがあって、部屋からは専用のエレベータで、バスローブのままアクセスできる。

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Photo by Arosa Kulm

トレッキングのあとスパに直行し、筋肉をほぐし、からだを休めるのは至福のときである。谷のむこうに連なる山々をながめながら、ふかふかのリクライニグチェアに身をしずめ、アルプスのハーブティをすこしずつ口に何も考えずぼーっとする。

サウナでほってたからだをクールダウンするのには、ただスパの前庭に出るだけでいい。5℃前後の外気はクールダウンするのにじゅうぶんにつめたく、霧まじりの空気は冷たいミストを浴びるようにきもちいいのだから。

はだしでつめたく湿った芝生の上を歩く。すると足のうらが大地を感じて、からだじゅうがいっきに活性化される。

じつは、個人的には、トレッキングウィークの楽しみの50%が、このスパにあるといっても過言ではない。

だから「水着など衣服の着用禁止」という張り紙を、サウナの入り口にみつけたときも、簡単にあきらめようという気持ちには、なれなかったのである。

が、温泉の国日本からきたわたしとはいえ、さすがに「全裸混浴サウナ」にはちゅうちょするものがあったのは事実。

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Photo by Arosa Kulm

そんな私を尻目に、スイス人の夫や義姉は、さっさとハダカになってサウナに入っていく。そして義兄もつづく。だれもモジモジしているひとはいない。こうなってくるとぎゃくに恥ずかしがっていることがいやらしさを醸し出しかねない状況である。

えぇい、郷に入れば郷に従えだ!

この際、堂々としていたほうが逆にはずかしくないかも、といさぎよく一糸まとわぬハダカになった。見渡せばちまちまとタオルで前を隠しているひともいない。みな、胸をはり、どうどうとごじまんのアイテムをさらしているのである。

こうなったら、徹底的に地元のひとびとに従おうではないか。

そう決意をかためた。

が、あっちにブラブラこっちにブラブラ、どうにも目のやり場にこまる。

見知らぬひとならまだしも、である。義姉や義兄と真っ裸でご対面しているこの状況というのは、なかなか受け入れがたいものがあった。

しかも、ホテルのサウナというのはくせもので、滞在客どうしというのは、けっこう他の場面でも顔を合わす機会がある。

さっきサウナでブラブラさせていたムッシューが、レストランで隣のテーブルにきたりする。もちろんレストランではお互い洋服を着ているわけだが、さっきのハダカがちらついて、私はどうにも落ち着かない。

さらには、夫がマッサージの予約があるからと、私をひとりサウナに置いてでていったときのこと、入れちがいではいってきたおじさんと、二人きり、全裸で15分ほど汗をながすという、冷静にかんがえれば、鼻血ものの状況におちいったのである。

とはいえ、五つ星ホテルの客である。変なことを考えているのはわたしだけ。ジェントルマンたるものマナーとしてジロジロ見たり、変なきもちになったりはしないはず、と言い聞かせつつ、そぉーっと薄眼をあけておじさんの様子をうかがってみた。

え?こっち見てる?よね?

いや、気のせいじゃない。

それもチラ見どころでなく、ガン見のレベルなのである。

外国人ゆえ顔のほりがふかく、目ぢからがつよく見えがち、というのを差し引いても、たしかにこっち見てるぞ。

おいおい。

などと、余計なことを考えすぎて、頭がくらくらしてきたので、タイマーの砂時計はまだすこし残っていたけれど、そうそうにサウナを退出した私であった。

「外国人って、普通はハダカになるのイヤがってサウナには入らないんだけどね」

と、夫がのたまったのは、かなり後日になってからである。

「アメリカ育ちのS(親戚)とか、絶対はいらないからね」

いっぽう、そんなのとんでもない!というのはスペイン人の友人カップル。

「自分の妻のハダカを他の客にみられたくないから、うちは入らないよ」

ウチは妻のハダカ、ばりばりみられてましたけど?

「きになるなら、タオルは巻いていいんだよ」

夫よ。次回からそういう重要なことは、早くいってくれ。

とにもかくにも、このカルチャーショックを誰か日本人と共有したくて、スイス在住歴の長い知人男性にはなしてみた。

彼曰く、スイスでもドイツ語圏はハダカになるけど、フランス語圏ではならないのだそう。彼も、スイス人の友人につれられて全裸混浴サウナをはじめて体験したときには、ショックをうけたようである。

それで気になる質問をしてみた。

「でも、お互い変な目でみたりはしないですよね?」

「いやいや、見るでしょう!ばりばり変な気持ちで見るに決まってますよ、男は」

「一緒にいった友達とか、すっごい見てたもん」

やっぱり、、ね。

と、ここまでが去年のはなし。

もろもろの知識をえた今年は、タオルをまいてはいろう、とこころにきめ、「全裸混浴サウナ問題」はいちおう終結をむかえてのぞんだトレッキングウィークのレセプション会場で、わたしは目をうたがった。

「ま、まさか、あのおじさん?」

去年サウナにて全裸でふたりきりのときをすごした、あのおじさんとのまさかの再会。なんと今年はトレッキングウィークのメンバーとしてご一緒することになってしまったのである。

なんていうか、かつての愛人にでも再会したような気まずさ。

勝手にわたしが被害妄想にはしっているだけで、おじさん的にはとんだ濡れ衣だったりする可能性は大、というはなしもあるが、とにかく落ち着かないことはこの上なく。。

サウナも温泉もハダカのほうが気持ちいいにきまってる。それはわかる。だから混浴じゃなくて、男女別にしてくれたら何の問題もないんだけれど。。

なぜあえて混浴なのか?

スイス式ハダカのおつきあいに馴染めるまでには、まだまだ時間がかかりそうである。

(つづく)

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Photo by arbroath

arbroath.blogspot.ch

*ヌーディストビーチ、全裸混浴サウナとくれば、お次はネイキッドハイキング。いちいち禁止の看板をたてなければいけない状況っていったい?とある州では罰金1万円だそうです。Naked, Hikingで検索するとけっこう笑える写真がずらりヒットしますよ〜。たしかにハダカで野を歩くのって気持ちよさそうですけどね。