読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

SABAすたいる

スイスのくらし、旅のエッセイ、日々のできごと、おもうこと。

雲のうえには何がある?山岳リゾート・アローザですごすスイスの秋(7)

今日はヴァイスホルン(Weisshorn)山頂の展望台に行ってみようという。

空はぶあつい雲におおわれ、山はたちこめる霧につつまれているというのにだ。

こんな日に展望台?と顔に書いてあるわたしをみて、夫がいった。

「雲がひくいから、きっと山頂は快晴だよ」

雲の上には、青空が、とはいうけれど。ゴンドラの中継駅をすぎても、あたりは灰色一色のまま。あと数秒で山頂駅、というところまできても、いぜんゴンドラはすっぽり雲のなかだった。

やっぱり、何も見えないんじゃ?と思いかけたその瞬間だ。

スポッと。

ほんとうに、そんな音がしそうなくらい、きっかりと視界がひらけ、気づけば私たちは雲の上に抜け出ていたのだった。

f:id:sababienne:20161008232447j:plain

わぁー!ゴンドラに歓声がわきあがった。

f:id:sababienne:20161008232602j:plain

360度、みわたすかぎり雲の海がひろがり、かなたの水平線には4000m級の山たちがちょこっと顔をのぞかせている。

f:id:sababienne:20161008232712j:plain

視界がよい日にはなんと2000個もの山が見えるのだそう。。

f:id:sababienne:20161008234303j:plain

何が見えるかな?

f:id:sababienne:20161008232523j:plain

望遠鏡でズームすると、ときおり波立つ雲の切れ間から、こんなふうにいきなり山が姿をあらわし見飽きることがない。

2000もの山々がみわたせるベストな日の眺めは、さぞかし圧巻だろう。けれど、敷きつめられた雲と、山のてっぺんと、青い空と、太陽だけのこのながめもなかなか捨てたものではないな、と思った。

山はそのときどきの天候によって表情を変え、いろいろなすがたをみせてくれる。きっとそのひとつひとつが、それぞれすばらしいにちがいない。

f:id:sababienne:20161008232743j:plain

まるで宇宙船のようなこの建物は、ゴンドラの山頂駅である。

スイス人建築家のTilla Theusによる変則六角形のたてものの外壁は、うろこ状のアルミニウムでおおわれている。このアルミニウムは山岳地帯での建築に適した軽量素材であるとともに、周囲の景色になじむ素材として採用されたそうだ。

f:id:sababienne:20161009003125j:plain

建築のコンセプトスケッチ (Photo: Tilla Theus) newatlas.com

アルプスの山の中にモダン建築?という突飛さをまったくかんじさせないのは、こんなふうに山そのものに一体化するようなコンセプトでデザインされているからだろうか?

典型的なスイスのイメージといえば伝統的なシャレースタイルだけれど、両極にあるこんなモダン建築もじつはスイスっぽいもののひとつ。

スイスを旅すると山の上や古い町並みの中にも、ときおり前衛的なモダン建築をみつけることができるはずだ。

そしてそのどれもがけっこう思いきったデザインなのにもかかわらず、自然や古いものに無理なくなじんでいる。

保守的な国民性のなかにひそむ反動をかいまみるようでおもしろい。

景色も、モダン建築もたっぷり堪能したし、冷えてきたので、中のレストランでひとやすみすることにした。

360°という名のレストランからのながめは、文字通り360°どこをみてもすばらしい。

おおきくきりとられた窓のそとには、すいこまれそうな雲の海と青い空。

陽がさんさんと差し込む窓ぎわにこしかけ、あつあつのホットチョコレートが注がれたマグカップで両手をあたためていたら、なんだかちょっと眠くなってきた。

雲の上には青空が、ってホントだったねぇ、と夫に言うと、

あたり前だ、と夫が言った。

そう、いわれてみれば、ごくごくあたり前のことなのだった。目に見えないものがたいせつ、と星の王子さまに教わったのに、ね。見えてるものに支配されるばかりのこの現実。

そんなことをうつらうつら考えているうち、雲上人が宇宙船の出発を待っているような気分になってしまった。じっさいには下界にもどるゴンドラを待っているのだけれど。。(つづく)