くららの手帖

ローヌの岸辺暮らし、ときどき旅

見た目にだまされた、ゴージャスな一日。山岳リゾート・アローザですごすスイスの秋(8)

人は見ためによらずというけれど、山は登ってみなければわからない。

Setaという小山にはすっかりだまされた。

この日歩いたのは、Langwies(1377m)からBlackter Fürggli (2141m)まで、800m登って800mくだる、10kmを4時間かけてあるくというコース。

Langwiesからしばらくは、沢ぞいの細い道を行く。天気は快晴。やがて沢からそれて牧草地にはいると太陽をさえぎるものはなにもない。ゆるやかなスロープをゆっくりのぼる。

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ゴージャス!

ガイドのカリンが、なんども声をあげた。

きれい、絶景、絵みたい、、美しい景色を目にしたとき口をついて出ることばはいろいろあるけれど、ゴージャス、というのは、この日のうつくしさを形容するのにまさにぴったりのことばだ。

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牧草の緑も、空の青さも、色とりどりの花も、シャレーの赤い屋根も、視界にはいる色という色がこのうえなく鮮やかで、キラキラかがやいている。

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目にするだけで笑みがこぼれるようなしあわせ気分で歩いたせいか、800mの登りはけっこうキツイだろうと思っていたのに、わりとあっさりBlackter Fürggliの山頂に到着してしまった私たちであった。

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山のむこうにかくれていた谷あいのビューが一気にひらけ、ふりかえればいま登ってきた谷がひろがっている。谷をわたる風が気持ちよく、達成感をあじわいつつ休憩しようとする私たちに、カリンが言った。

「ついでに、コレもいってみる???」

そう指差したのは、ちいさな丘であった。

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ぱっと見たかんじ、たいした距離でもない。Blackter Fürggliからしてみればコブみたいなものである。せっかくだから登ってみるか、ということになった。

僕はパス。ここで待ってる、と即答したメンバーのモントレーを残し、一行はカリンを先頭にのぼりはじめた。

いがいと斜度がきついことに気づいたのは、ちょうど半ばまできたころである。

ちょっとバランスを崩せば転落しそうで、足がすくむほどの急斜面。しかも途中から道らしき道がなく、茂みのなか足場を見つけてあるかなければならない。なかなか次の一歩がだせず、みなからだいぶ遅れてしまった。

立ち止まって下をみるとモントレーがひとり、ゆうゆうとくつろいでいるのが見えた。いっしょに残ればよかった、と後悔するがあとのまつりである。

半泣きでてっぺんにたどりついたが、気力体力ともにすっかり消耗してしまった。

「イェーイ!」

ハイテンションなカリンがハイタッチをもとめつつ、賞賛してくれた。

「今年ガイドした数あるグループで、ココに登るっていったのはあなた達だけよ」

そういうことは先に言ってよね、弱々しいハイタッチを返しながらおもうのだった。

「さぁ、歌うわよ」

カリンのハイテンションはとまらない。

全員で、ヨーデルをうたいはじめた。

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あとで調べたら、このSetaという小山。たったの80mの標高差しかないそうだ。Blackter Fürggliまでの登り800mが楽勝だったのに、まさかオマケの80mでノックアウトされるとは。。つくづく山は、登ってみなければわからない。

ブラボー!

下で待っていたモントレーが、即席ヨーデル合唱団を拍手でむかえてくれた。

のぼりに負けず劣らず、くだりに悪戦苦闘して、げっそりするわたし達とは対照的に、体力を温存したモントレー

すでにトレードマークのキャンバス地のリュックサックを背負って歩く気満々である。

(つづく)

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*ハイテク素材隆盛のトレッキングウェアの中にあって、モントレーのそれは超ローテク。ウールの手編みカーディガンに、カウボーイハットといういでたちは、逆に新鮮で、モントレーにとても似合っていてすてきです。パンパンにふくらんだリュックサックは、お祖父さんが使っていたものを引き継いでつかっているのだそう。いったい何が入っているんだろう?