朝、ホテルのロビーで、民族衣装をきたこどもたちとすれちがった。あまりにかわいらしくて目をうばわれていると、フロントの男性が言った。
「きょうは、アローザでワルサーの同窓会があるんですよ」
ワルサー?耳慣れないことばにとまどっていると、
「じつはぼくもワルサーなんだよ」
トレッキングガイドのハンスが、午後からおもしろいパレードがあるから観に行こうとさそってくれた。
パレードを待つあいだ、ハンスが教えてくれた。ワルサーとは「13世紀にスイスのヴァレー州から、スイスアルプスの各地に移民したひとびと」のことなのだそう。
ヴァレー州はフランス語でValaisだが、スイスドイツ語ではWallisであるところからきていて、つまりWalserは「ヴァレー人」というわけ(日系人、みたいに)。そしてヴァレー州といえばマッターホルンで有名だが、ハンスはそのヴァレー州シオンの出身なのだった。
このワルサーの民族大移動、かなり大規模なものだったらしく。
スイス国内だけでなく、リヒテンシュタイン、オーストリア、イタリアなど近隣諸国にまでおよび、各地に住み着いた人々は、ワルサーというルーツを持ちつつも、それぞれの地域で異なる文化や習慣を花開かせたのだという。
移民は700年以上も前のことなのに、ワルサーとしての誇りやきずなはとても強いもので、いまでも数年にいちど大集合して親睦をふかめているというのだ。
それが今日。
いわば民族の同窓会的なお祭りだ。各地域がもちまわりでホストをつとめる決まりになっていて、ことしのホストはアローザというわけである。
「あ、きたきた!」
ハンスが指さす。楽隊の音楽とともに、馬のひづめと馬車の車輪の音がひびいた。
パレードの先陣は、スイスビール「Feldschlösschen」のビヤ樽をまんさいにした馬車である。このあとの大宴会で供されるビールだろうか?
つづいて、44の地域から集まった千五百人のワルサーさんたちが、地域ごとに隊列をくんでやってくる。それぞれ、地域名をしるしたプラカードとシンボルの旗が先導する。ダンスをしながらすすむグループもあれば、音楽を演奏する地域もあってにぎやかだ。
身をつつむ民族衣装は、地域によってさまざま。かたちや、色や、素材や、刺繍などの装飾、かごやバッグや帽子などの小物にいたるまで、それぞれ特徴があってどれもかわいい。
民族衣装はミュージアムでもマネキンが着ているのを何度も見たけれど、やっぱり生身のにんげんにはかなわないなぁと思う。息を吹き返すというかなんというか。この卵とパンをかごにいれた二人組のおばさんや、おおきな帽子をかぶったおばあちゃんのキュートなことといったら。。
素朴な木のおもちゃであそぶ伝統スポーツや、木の打楽器、アルペンホルンのデモンストレーションをするグループもあれば、特産のワインやクッキー、ケーキ、キャンディを沿道の観客にふるまうグループもあり。
このなかよし二人組はクッキーを。
木製のワインサーバーを背負った「ワインガール」は、名産の白ワインを。
謎のもみの木おじさんもいれば、やぎや猟犬、羊や馬もあるく、あるく。。
44すべてのグループを見届けるまでに、ゆうに1時間以上はかかっただろうか?
ちょっとはにかみながら歩くすがたは、どこかの国のパレードみたいにけっして情熱的じゃないのだけれど、各地に根付いて地道にたくましく生きているワルサーさんたちの、なんというか生命力の強さみたいなものをかんじる、見応えたっぷりのパレードであった。
さて、寒空のなか、からだがすっかり冷えきってしまったわたしたちは、いそいで目の前のカフェにかけこみ、絶品のとろけるチーズトーストとホットチョコレートで暖をとったのだけれど、ワルサーさんたちは、このあとアイスホッケースタジアムになだれ込んでの大宴会となったらしい。
スタジアムを埋め尽くすワルサーさんたち。さぞかしもりあがったことだろう。。
Photo by www.suedostschweiz.ch
*次回は「2018年、Lotschentalで会いましょう!」だそうです。
*秋はお祭りの季節。こんなふうに、ふとしたところでお祭りにばったりでくわすことがよくあります。この前日にも、ドライブ中、アルプで夏を過ごした牛が麓へくだる牧くだりの行列とすれちがいました。