くららの手帖

ローヌの岸辺暮らし、ときどき旅

良くも、悪くも、ホンモノ

「今日の夕ごはんは、ブラスリーリップを予約しておきました」

パリで夕食をともにする約束をしていた、友人夫婦から連絡がはいりました。息子さんがパリに住んでいて、お店をいろいろ知っているからとお店の手配をかってでてくれたのです。

ブラスリーリップといえば、数々の伝説が残る有名ブラスリー。地元のひとにはもちろん、観光客にも大人気のレストランです。

そんなレストランの席をとってもらったのだから、ワクワクするのが筋というものなのですが「パリに来たのに、リップ?」おもわずつぶやいてしまった不遜な私。

というのも、私が住むジュネーブに、リップの支店があるからなのです。

Paris by Night - Brasserie Lipp

http://www.brasserielipp.fr

ブラスリーリップは、ヘミングウェイのお気に入りだったことで有名です。

リップがいいな。あそこで食べ、且つ飲むことにしよう。リップは歩いてすぐだった。目や鼻に劣らず素早く、胃袋がそれと気づく飲食店の前を通り過ぎるたびに、歩くのが一段と楽しくなった。

「移動祝祭日」ヘミングウェイ

まだ売れない作家だったころ、パリに住んでいたヘミングウェイは、空腹に耐えるために、わざわざ飲食店のない通りを選んで歩いていたそう。。そんなヘミングウェイが原稿料が入ると、真っ先に向かったのがリップなのです。

「移動祝祭日」の中で、ヘミングウェイが注文するのは、オリーブオイルでマリネされたポテトサラダと、マスタードソースをかけたソーセージ、そしてビール。

良く考えてみると、料理はジュネーブでも味わえても、こういう伝説やエピソードは本店じゃなければ味わえません。

支店はしょせん支店。本家本元を見ずして、リップを語るなかれ!です。

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私は、ジュネーブでもお気に入りの「マグロのステーキ」を注文。

若干の違いはあれど、メニューはほぼ同じ、アールヌーボー様式の内装も同じ、そして面白いことに客層まで同じ。ジュネーブ支店、なかなか忠実に再現しています。

ただし「ギャルソン」をのぞいては。。。

ギャルソン(ウェイター)といえば、このリップはYves Montandの映画「ギャルソン」の舞台にもなっています。

www.allocine.fr

一往復するあいだに、料理をはこび、空いた皿を片付け、注文をとって、勘定を受け取り、新しい客のために席を用意する。めまぐるしくたち働くギャルソンは、パリの名物です。

私たちのギャルソン氏も、例外ではありませんでした。

がしゃん、と音を立てる一歩手前で、お皿を着地させ、投げつけるということにはギリギリならないスピードでカトラリーをセットし、しぶきがかかりそうな(けれどももちろんけっしてかからない)勢いでワインをつぐさまは、手品のよう。

「キビキビ」と「がさつ」の紙一重のうごきで、忙しく、しかし無駄がなく、目配りの効いた完璧なサービスを提供してくれました。

ジュネーブのウェイターはというと、忙しく、無駄がなく、目配りの効いた完璧なサービスを提供してくれる点では、本店のギャルソン氏と同じなのですが、「接客がていねい」で、「愛想がある」という点で、日本人もびっくりのホスピタリティなのです。

笑顔禁止令でもでているのか?というくらい、無愛想だったパリ本店のギャルソン氏。彼の笑顔が見てみたくて、お支払いの際、夫がおそるおそる話しかけてみたのです。

「ジュネーブのお店には、よく行くんですよ」

あー、やってられない!とばかりに首をぶんぶん振って、ギャルソン氏。

「あれは、ニセモノだ!ウチとはこれっぽっちも関係ない!」

吐きすてて、厨房へと消えて行きました。

え???

ジュネーブのって、ココの支店じゃなかったの?

衝撃の事実に一同唖然。

そして結局、さいごまでギャルソン氏の、キュートな笑顔を見ることはできなかったのでした。

 《パリ覚え書き》La Brasserie Lippの海外支店

後日、このブログを書くために、ブラスリーリップパリのWEBサイトを見ていたら、ジュネーブのリップ、しっかり海外支店として明記されてました。

となると一体、あのギャルソン氏の発言はなんだったんでしょう?

パリジャン・ジョーク?

たしかに、ギャルソン氏のような「ホンモノのギャルソンがいない」という点において「ニセモノ」と言えるのかもしれませんが。。。

ちなみに海外支店として明記されているのはわずか2店舗。もうひとつがメキシコ、というのにも興味をそそられました。

なぜにメキシコ?