世の中には、サプライズが好きなひともいれば、嫌いなひともいる。
すべての嗜好は、個人の自由だ、とおもう。
もんだいは、サプライズする人が「するか・しないか」を選べるのにたいし、される側にはまったく選択の余地が与えられていない、ということだ。
サプライズは、する人のモノであると同時に、される人のモノ。
甘くみると、痛い目にあう。
たとえば、プロポーズ。
大学時代の友だちの話だ。
彼女は、スキー場の民宿のコタツでみかんの皮をむいているとき、おもむろに「ぼくと結婚してください!」とプロポーズされた。
ジャージ姿のふたり、絣のコタツ布団、石油ストーブの上では、やかんがしゅんしゅんと湯気をあげている。
数秒の沈黙のあと、彼女はいった。
「無理!」
結婚が、ではなくて、この状況が無理なのだ、と。
彼にしてみれば、あえて生活感あふれる状況でさりげなく、と計算の上でのサプライズだったらしい。
けれども、ときはバブルのころである。
市場調査をおこたったがゆえの痛恨の計算ミス、といってさしつかえないだろう。
(銀行員なだけに、彼のその後が気がかりである)
けっきょくこのプロポーズは、彼女によって公式記録から抹消され、後日、五つ星ホテルのバーにおいて、やりなおされることになった。
いっぽう、アメリカ人のご主人をもつ友だちの場合はこうだった。
バリだったか、セブだったか。夜のビーチを二人きりで散歩しているとき、サプライズはやってきた。
星明かりの中、聞こえるのは波のくだける音だけ。
ふいに彼が、砂浜にひざまづく。
「Will you marry me?」
うるんだひとみで、彼女をみつめ、ちいさな箱をさしだす。
そして、さぐるような視線を彼女の顔にむけたまま、彼はゆっくり箱をあける。
パカッ。
巨大なダイヤモンドに、おもわず息をのむ彼女。
そして、ややあって、
ピピピ、、、ピキッ!
点灯したのは、蛍光灯である。
暗闇のビーチで、かんじんなダイヤモンドが見えなくては大変、と彼がこだわりぬいて用意した指輪のケースには、あけると点灯するしくみの蛍光灯が、内蔵されていたのだった。
ロマンティックなビーチよりも、ゴージャスなダイヤよりも、そして感動のプロポーズよりも、
「あの蛍光灯がいちばん、ツボだったわ〜」
肩ふるわせ、笑い悶える彼女を見るにつけ、わたしは思う。
サプライズとは「一筋縄でいかぬ、危険なモノ」なのだ、と。
さて。
尋常じゃなく前置きが長くなってしまったが。。
このことを念頭におきながら、ここでやっと本題に入りたいとおもう。
先週。
ピンポーンとチャイムがなって、小包がとどいた。
「サプラ〜イズ!」
開けてみて、と夫がいうのである。
え?
なに?
おりしも、日付は3月14日である。スイスにホワイトデーの習慣はないけれど。もしかして、これは♩♩♩
たかまる期待に胸躍らせながら、ガムテープをはがす。
そう。
いわれてみれば、ちょっと前に、ジュエリーブランドのカタログが、机の上においてあったのだ。
いつだったか、日本にはホワイトデーなるものがあると、新聞で読んで「ふーん」なんていってたし。
ふふふ♩
ニヤけるわたしに、夫が言った。
「GOGATSU NINGYOって、持ってないよね」
え〜っと。。
聞きまちがいでなければ、いま「五月人形」といいました?
「ひな人形しか、飾ってないみたいだから」
それはまぁ、わたしは女だし、わが家に男の子はいないですから、ね。
しかしながら、持っていないのは、至極当然。
海外のみなさんはご存知ないかもしれませんが、そもそも、五月人形というものは、、
「欲しいのかなーと思ってさ」
だから、そういうもんじゃないんですってば、五月人形ってのは!
むむむ。
なんだか、雲行きがあやしくなってきたぞ。
「ドイツのアマゾンで売ってたから、びっくりさせようと思って♩」
いやな予感は、確信にかわった。
しかもドイツのアマゾンて。。
出典:人形の久月
*ドイツのアマゾンといえば、五月人形が「ご家庭用神社」という名で売られているのを、みかけたことがあるのです。
しかしまぁ、バレンタインで欧米式にさんざんよくしてもらっておきながら、あわよくばホワイトデーは日本式になんて、かんがえるわたしのほうがおかしかったわけで。
そうとわかれば、わたしだっていい年した大人なのである。このサプライズ、大人の女の包容力でもって、しっかと受け止めようではないか。そう、覚悟をきめた。
”なんてビューティフルな、五月人形なの♩”
”いままで見た中で、最高の五月人形だわ♩”
”こんな五月人形、ずっとほしかったの♩”
などなど、リアクションのことばも各種とりそろえて、包みを開けた。
オープン・ザ・ボックス!
.
.
.
.
.
「こ、これは?」
絶句するわたしをみるや否や、サプライズ成功を確信した夫が、決めゼリフを言い放つ。
「サプラーイズ・サプラーイズ!」
たしかに、ある意味、ものすご〜く驚いているわけではあるけれども。
その理由、いうべきか、いわざるべきか?
「こ、こんな五月人形、はじめて」
そういうのが、精いっぱいのわたしであった。
結果がどうあれ、スイートなリアクションでもって、サプライズの労をねぎらってあげられる度量のなさを反省しつつ、ここで一句。
サプライズ されるこちらも 楽じゃない
ドイツのアマゾンでお買い物の際には、よく商品をお確かめください♩