SABAすたいる

スイスのくらし、旅のエッセイ、日々のできごと、おもうこと。

バカンス上手な彼女

仕事がえりのアリアンヌが、その水仙をとどけてくれたのは、三寒四温の「寒」の日暮れどき。

つめたい風がぴゅうぴゅう吹くなか、水仙をカゴにつっこみ、お仕事バッグをたすき掛けにした姿もいさましく、自転車をこいできてくれた。

ぐるぐる巻きにした毛糸のマフラーに、うずめたほっぺを真っ赤に染めて。

f:id:sababienne:20180330234200j:plain

仕事あがりの、夕ごはん前といえば、ワーキングマザーにとってもっともあわただしい時間帯。

どうかな、と一瞬ちゅうちょしたのだけど、

「お茶でもどう?」

つるりと口をついてでてきたのは、ビズしたときの彼女のほっぺが、あんまり冷たかったからだ。

「もちろん!」

ひょうしぬけするほどの即答に、もたもたする私をおいて、彼女はすでにマフラーをはずし、すたすた階段をのぼっていく。

あわてて彼女のあとを追いながら、そうだった、とおもいだしたのだ。

この国では「どうかな」なんてちゅうちょなど、必要なかったことを。

f:id:sababienne:20180329175401j:plain

人々にヒマがあること、ゆとりがあること。

これは、わたしがスイスで「いいな」と思う、いくつかのモノゴトのひとつだ。

「今週末、空いてる?」

「明日の晩、ディナーに来ない?」

お茶はもちろん、休日のおでかけや、夜の予定でさえこの調子。

きゅうに誘ったり誘われたりすることが多く、しかも、直前の誘いにもかかわらず、たいてい「いいわよ」ということになる。

(ちなみに、日本ではひと月先、ときにはふた月先に友だちと会う約束をする、なんていうと、冗談だとおもって本気にしてもらえない)

かといって、けっして、ヒマ人がごろごろしているわけじゃない。

むしろ、仕事に趣味に育児にと、活躍している人たちにかぎって、めったに「忙しい」と口にしないし、時間にゆとりがある。

どうしてだろう?

ふしぎにおもっていたのだけど、さいきん気づいたのだ。

彼らにとって、やるべきことをやった残りの時間が、ゆとりになるのではない。

まず「ゆとり(空白の時間)」を確保する、そして残りの時間でやるべきことをやる、というのが彼らの順番なのだ。

つねに「空白の時間」があることの、何がいいかというと、それは、そのときどきの気分を大切にできることだ。

気分とか、体調とか、天気とか。

ふだん忙しくしていると、ないがしろにされがちだけれど、実はもっとたいせつにしなきゃいけないもののはず。

お年ごろのせいか(?)最近しみじみそうおもう。

なにかに合わせるひつようのない、自分のためだけの余白をもてること。

そんな毎日の積みかさねは、暮らしの質に、人間としての器に、顔つきに、確実におおきな差を生む。

さて。

水仙をとどけてくれたアリアンヌとの、つかの間ティータイム。

リビングには、読みかけの雑誌やパソコンがひろげっぱなしだし、キッチンでは夕ごはん用の肉のパックが解凍中。

お茶もお菓子もふだんづかいのものを、そのまんま。

とまぁ、こんな急なおさそいは、どうしても普段着のおもてなしになってしまうわけなのだけど、そんな気安さがかえって親密さを増す、という部分もあったりして。

f:id:sababienne:20180328233020j:plain

*本日のお菓子は、スイス・アッペンツェル地方の郷土菓子「Bärli-Biber」。中にはアーモンドとはちみつのペーストが入っている、名づけて「スイスの月餅」!

花の話、仕事の話、家族の話、旅の話、むかし話などなど。

毎週会っているにもかかわらず、ふだんできない話がたっぷりできたし、しごとと家事のあいだに、職業人でもなく、母でも妻でもなく、ただの自分でいられるじかんが、たった三十分でももてたことは、なかなか心地よいものだった。

「すごーくリフレッシュできたわ」

とマフラーをグルグル巻きつけながら、別れぎわにアリアンヌはいった。

「すてきなプチ・バカンスをありがとう」

わたしは、その言葉がすてきだ、と思ったので、そうつたえて手をふった。

ドアを閉め、ほんとうにすてきだ、と思ったので、いそいで忘れないよう手帳に書きとめた。

プチ・バカンス。

夏や冬のバカンスだけじゃなく、毎日の暮らしの中で「プチ・バカンス」を上手に楽しむ人。

その発想がすてきだ、とおもった。

バカンスの語源は「空白」だ。

毎日のくらしの中のちいさな「空白」は、時間にも、暮らしにも、そして心にも、ゆとりをうむ。

ゆたかな暮らしって、こういうことなのかも。

暮らしに「プチ・バカンス」を♩

Bonnes Petites Vacances!

*****

[ スイスのおやつ]

 日本の「おやつ」の語源は、江戸時代のことばで、午後二時から四時をさす「お八つ刻」ですが、スイスドイツ語の「おやつ」も、Znüni(朝九時)とZvieri(午後四時)と、やっぱり時刻が語源になっています。

古い時代の農家の習慣からきているので、優雅なティータイムというよりは、小腹をみたすのがメインの目的ということもあって、まわりを見ていると、食べられているのはパンとか、ヨーグルトとか、くだものなど、わりとがっつりお腹にたまるものが多いようです。

スイスといえばチョコレートですが、わたしのお気に入りは、前述のBärli-Biberみたいな地味系スイス菓子。

f:id:sababienne:20180328233102j:plain

(上)二月のお祭り「ファスナハト」の揚げ菓子「Fasnachtschueechli」とか、

f:id:sababienne:20180328233111j:plain

メレンゲ(本来はこれに超濃厚なダブルクームをつけて食べます)とか♩

朝昼夕の食事のあいだに、朝のおやつ、午後のおやつ、そして夕ごはんの前のアペリティフに、夕ごはんあとのダイジェスティフ。

まぁ、これをぜんぶこなす人は、さすがにいないと思いますが、

あらためてかぞえてみると、ほっと一息つける習慣がいっぱい!なスイスの一日です。

*****