「マダムsabaは、ご在宅でしょうか?」
朝8時きっかりにかかってきた、一本の電話。
”深夜早朝の電話に、よいしらせなし”とはいうけれど、まさにそれは、借金とりからの電話でした。
「12月にご利用の、60フラン(約七千円)のお支払いが、おすみでないようですが」
身におぼえがあるか?といわれれば、これが大ありなのです。
延滞利息が加算され、支払額が三倍になった督促状を、受けとっていたのですから。。
高利貸しもびっくりの、利息にぎょうてんしたのはもちろん。
なによりも開いた口がふさがらなかったこと。
それは、督促をうけるのが、これがはじめてではなく、2度目でもなく。
じつに3度目であるということでした。
それも、督促前に、きちんと支払っているにもかかわらず、です。
eバンキングの記録も、まぎれもなく「支払い済み」になっています。
振込先、振込元ともにおなじ銀行どうし。
すでに2度、証拠書類を送付して、2度とも一件落着したはずの件なのです。
いったい何をどうこんがらがれば、こーなるの?
このきもち。
きっと共感してくれるだろうと期待して、その日たまたま会った3人に、この話をしてみました。
と、3人が3人とも、同様の経験があるというので、まずびっくり。
しかも、うち2人が、現在進行形の案件をかかえていたので、一緒に笑ってしまいました。
ところがところが。
3人とも、ちっとも憤慨しているようすがありません。
そしてモノ慣れたようすで、口をそろえていうのでした。
すべてのレシート・書類は、とっておけ。
証拠さえあれば、恐るるに足らず。
おっしゃるとおり。
今回の件に関するすべてのやりとりも、あえてメールと手紙で、記録をすべて印刷しファイルしています。
(つまり、4度目のヌレギヌにそなえているわけなのですが。)
すべてがこんな調子だから、わが家のペーパーレス化は、絶望的にすすみません。
と、こう書くと、やっぱり外国っていい加減なのね、という話になりがちなのですが。
これでもスイスは、ヨーロッパの中ではダントツきちんとしてる国だといわれています。
たしかに真面目さ、礼儀正しさ、正確さなどは、日本人に通じるものがあるし、こと法令遵守にかんしては、もしかしたら日本をすらうわまわる、厳格さかもしれません。
ルール、法律は、石にきざまれている絶対・不変のもの。
どんな例外も、言いわけもみとめられない。
たとえば、わたしはスイスに移住したとき、ちょっとややこしい立場にあったせいで、ソーシャルセキュリティの申請手続きに、モレが生じてしまったのですが、気づいたときはあとのまつりで、スイス年金の任意加入の権限を、永久に失うことになってしまいました。
手続きに不備があったのは、私のせいではなく、おかれている例外的な立場を考慮せずに手続きをすすめた年金事務所のほうにあると文書で訴えて、さいごは裁判所までいったけれど、けっきょく訴えはみとめられず。
「マダムのおかれたこの状況には、こころより同情もうしあげます」
裁判所の出口で、社会保険庁の職員がつくってみせた”悲しそうな顔”が、わたしには、石板にきざまれた法律にみえたものです。
移住早々のその日、わたしの脳裏には、こんなことばが焼き付けられたのでした。
スイスの法令遵守に、義理人情・情け容赦なし。
・・・といえば、先日のことです。
飲み会の帰り道、トイレががまんできなかった男友だち。
立ちションをしているのを、おまわりさんに見つかってしまいました。
深夜ゆえ、まわりにあいている店もなかったし、生理現象なのだから、と反論したけれども、酌量の余地なし。
「罰金300フラン(約3万5千円)を支払うはめになった」
大きなため息をひとつつき、
「(ふるさとの)スペインならば、もうすこし義理と人情ってものがあるんだけど」
となげく彼。
じつは、スピード違反で百万円ちかくの罰金と、半年間の免停をくらったばかりなのです。
交通違反は、とくにきびしく、罰金額は、その人の資産額や収入におうじて決定されます。
つまり「いったいどれだけのスピードを出していたのか?」とどうじに、「どれだけお金持ちか?」が罰金額算出の変数になる。
とまぁ、きわめてシンプルな計算式なので、資産や収入を詮索されたくないひとは、いくらショックでも罰金の額は、あんまり人に言わないほうがよいのですけど。。
ちなみに、スピード違反の罰金で史上最高といわれているのが、スウェーデン人のお金持ちの男性のケース。メルセデスのスポーツカーで、時速290㎞で走行して課された罰金、なんと1億円超。
このケースのようにあんまりひどい違反だと、車も没収になります。
立ちションに、スピード違反。
罰金つづきで、やぶれかぶれの男ともだちを、
「車が没収にならなかっただけ、よかったね」
口々になぐさめつつも、頭は計算にいそがしい私たち。
たがいに目配せしながら思ったことはひとつです。
けっこう、お金もってるのね♩♩♩
百万円の罰金が、ちょっとうらやましい、というちょっとへんなおはなしでした。
*いろいろありますが、どこまでも青く美しい、初夏の陽気のレマン湖。立ちションの現場が、美しきレマン湖ではなかったことを、申し添えておきます。ねんのため。