SABAすたいる

スイスのくらし、旅のエッセイ、日々のできごと、おもうこと。

トキメキに、水さすモノ。:パリ、ジャポニスムひとり旅(2)

パリの食器屋で、おもちゃみたいなカフェオレボウルをみつけた。

両手のひらに、すっぽりおさまるサイズ感。乳白色の、つるんとしたかたち。手描きの水玉の、よくみるとわずかに輪郭がブレてるゆるさ。かすかに翳りが混じった、びみょうなトーンの赤とむらさきの色づかい。

ちょっとしたディテールに、いちいち胸がときめいて「これ、ください!」きづけば、財布をにぎりしめていた。

大きな声では言えないが、フランスのモノって、やっぱりステキだ。

(スイスのモノとは、何かがちがう)

心の中でつぶやいているだけなのに、

(スイスのモノには、またちがった良さがあるのだけど、、)

フォローしてしまう変なくせが、ポロリとでる。

包みを手にパリの雑踏に出たら、ふとわれにかえって可笑しくなってしまった。

ここはパリ、わたしはひとり旅。フランスのモノにときめくのに、いちいちスイス人に気兼ねする必要などないのだ。

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というのもどういうわけか、スイス人にはフランスぎらいが多い。

たとえば、ちょっと変な運転をする車があるとする。ナンバーも確かめずに、スイス人はいう。

「フランス人ときたら!」

それからたとえば、「夫はフランス人です」といったとする。日本なら「あらステキ!」とうらやましがられるところ、スイス人はいう。

「たいへんですね」

はたまた、フランスのマルシェにでかけたとする。わたしは、せっかくなのでフランスのチーズやハムを買ってみたいのだが、夫(スイス人)はいうのだ。

「肉とチーズは、スイス産にかぎる」と。

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*ファースト・アスティエ♪

だからひとりでパリを歩いていて、「そうか、だれに気兼ねする必要もないのか!」とおもったら、なんだか急にうれしくなってしまったのだ。

あこがれのアスティエ・ド・ヴィラッドに、メゾン・デュ・ショコラのエクレア。

食べるはしからほろほろくずれる、バターたっぷりのフランス式のクロワッサン。

ショウウィンドウのディスプレイに、街行くひとの装いに、はては犬の表情にまで、

ひとたび封印がとかれたトキメキは、とどまることを知らない。

二泊三日分のトキメキで、ぱんぱんにふくらんだ胸とスーツケースをたずさえ、意気揚々、スイスに帰ってきたのだった。 

「ボンソワール、マダム」

と、そんなわたしを空港の出口で、にこやかに呼び止めるムッシューがひとり。

「スーツケースの中身を確認したいのですが、よろしいでしょうか?」

ホテルのバトラー並みに口調はていねいだけど、連れて行かれるのはスイートルームではなく、スイス税関の別室だ。

スイスでは、海外でお買い物した物品が300フラン(3万5千円)を超えると、帰国時に申告して税金を支払わなければならない。

つまりわたしは「300フラン以上買い物したのに、しらばっくれようとしてるふとどきもの」と疑われているのだった。

「かまいませんが」

気づかれないよう、わたしはそっとため息をつく。

じっさい、あんまりしょっちゅう税関でひっかかるので、いまでは傾向と対策はバッチリ。スーツケースを開けられても、なにも困まるものはでてこないのだ。

が、いったん別室行きになると、30分は足止めをくう上、スーツケースの中身を下着から財布のレシート一枚一枚にいたるまで、なめるように調べ上げられるので、これは相当なストレスになる。

それよりなにより、ひっかかることじたい、

「たくさん買い物してきたな?」

「物欲のかたまりだな?」

そう、責め立てられているようで、楽しい気分にすっかり水をさされるのだ。 

手袋をはめ、調べる気満々の税関職員の、きれいなかたちの後頭部にむかって、わたしは独りつぶやく。

(スーツケースの中身は、物欲じゃなくて、トキメキなのに。)

トキメキは、プライスレス。

さすがのスイス税関も、トキメキに課税はできないと思うのだけど。

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*物欲じゃなくて、トキメキ、です。

*石田ゆり子さんもぎゅうぎゅうしたという、アスティエの看板犬、アヴリルくん。わたしが行ったときは、ぐぅぐぅ寝てました♪