くららの手帖

ローヌの岸辺暮らし、ときどき旅

絵本「ウルスリのすず」の実写版映画を観ました。これは日本でもぜったい公開してほしい!


「ウルスリのすず」という絵本をご存知でしょうか?f:id:sababienne:20160428220517j:image

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スイスの山奥に住んでいる、とんがり帽子の男の子ウルスリの、村のお祭りをめぐるちいさな冒険のおはなし。

わたしはスイスに住むことになるずっと前からこの絵本が大好きだった。

読むたびにやさしい気持ちになれるから。

些細なことで傷ついたり、悔しかったり、うれしかったりする、ウルスリの子どもらしいピュアな心の動きがとてもかわいらしいし、ウルスリが住んでいる村は、けっして経済的に豊かとはいえないのだけれど、小さなことに幸せを感じたり、人と人とのつながりを大切にしたり、ほんとうの心の豊かさが残されている。

そして、絵本を開くと一瞬にして絵本の世界に引き込まれてしまうアロイス・カリジェの挿絵はいちどみたら忘れられない。

シンプルなのに力強くて躍動感のあるラインと、モノトーンのなかに繊細な色彩がぽっとにじみでるような色づかいがとても印象的だ。

しんと静まり返った雪の夜のシーンでは、冷え冷えとした静けさが聴こえてきそうだし、うれしそうなウルスリの笑顔は笑い声といっしょにこちらに飛び出してきそう。

伝統的な壁装飾の石づくりの家がならぶ村は、独特な遠近法のラインでふちどられていて、異次元に入り込んだかのような錯覚をあたえてくれる。

絵本のいいところは、つかれて頭がじゅうぶんはたらかない時にも、すっと別世界に入っていけることだ。ふだんあまり使っていない右脳にはたらきかけられるというか、こどもの頃のピュアな心もちを思い出させてくれるというか。ほっと一息つきたいときや、落ち込んだり不安だったりするとき、絵本はアロマセラピーみたいに効いてくれる。

アロイス・カリジェの挿絵は、余白に想像の余地がのこされているので、人によっていろいろな見方ができるのもいい。情報があふれる毎日だからこそ、こういうシンプルなものって人の心を安らかにしてくれるんじゃないかなと思う。

そんな偏愛している絵本の世界が、実写版になると聞いてすごく楽しみにしていたのだけれど、いっぽうで映像にするのは難しそうだなぁと心配でもあった。

絵本のストーリーは、20ページそこそこのとってもシンプルなお話なのに、映画にしたら間延びしちゃうんじゃない?とか、アロイス・カリジェの絵の世界観をこわしちゃったらがっかりだな、とか。

けれど、実際できあがった映画をみてみると、これはもう原作がどうとか関係なしに単体の映画としてとてもおもしろくて良い映画に仕上がっていたのでびっくりした。

原作のストーリーと世界観を肉付けする効果的なエピソードがうまく加えられていて、そのひとつひとつのエピソードがただの肉付けに終わらず、それ自身あらたな価値をうみだしているのだ。

村の暮らしのきびしさとか、そこで助け合いながらいきている人々のきずなとか、子どもらしい気持ちのうごきとか。自然の美しさや村の暮らしのようすとか、絵本では想像力にまかされていた部分が、映画ではリアルに描かれている。それでいて、原作の世界はこわしていないのだからウルスリファンも満足させられる出来だとおもう。

スイス国内の興行が成功をおさめたというのも納得だ。子どもばかりで浮いちゃうかな?と心配していたのだけど、映画館は老若男女がつめかけていて、あらためてウルスリの幅広い世代での人気をかんじることができたのだった。

こどもだけじゃなく、絵本ファンだけじゃなく、ふつうの大人がたのしめる上質な映画だとおもう。日本でもぜひぜひ公開してくれるといいなぁと思う。

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