くららの手帖

ローヌの岸辺暮らし、ときどき旅

女子力より「ママン」力。カトリーヌ・ドヌーヴに学ぶ、大人の女の底力。

女子力、女子力、とお経のように耳元で唱えられた30代。柄にもないフェミニンな格好をしてみたり、女らしい習い事をしてみたり、美容に大枚つぎこんだり、思えば大変な時代であった。

女子力(じょしりょく 英語women's power[1])は、輝いた生き方をしている女子が持つ力であり、自らの生き方や自らの綺麗さやセンスの良さを目立たせて自身の存在を示す力[2]男性からチヤホヤされる力[3]

女子力 - Wikipedia

結婚し、40代になり、海外で暮らすようになった今、やっと「女子力」の呪縛から解き放たれ、つくづくほっとしている。

そこで今、気になるのは、年を重ねてもなおステキな女性たちだ。

  • すれ違いざま、ほほえみを交わしただけなのに、優しい気持ちにさせてくれたマダムの茶目っ気たっぷりの笑顔。
  • 機内で隣席の外国人に、やさしく和食の食べ方を教えていた、初老の日本人女性の柔和な雰囲気。
  • そこにいるだけで、場をなごませ、安心感をあたえてくれる、90歳になる義母のふところの深さ。

などなど、すてきなひとがいると思わずみとれてしまう。年配のステキな女性には、何かとらえどころのない「素敵の理由」があるような気がしてならないからだ。

髪型とか、美容とか、ファッションとか、ましてや「女子力」みたいな小手先のテクニックといったものではない。そんな上っ面なものではとうてい、たちうちできないなにか。。

週末、たまたま手にとったDVD。映画「しあわせの雨傘」のカトリーヌ・ドヌーヴが、その「なにか」をおしえてくれた。

しあわせの雨傘 スペシャル・プライス [DVD]

カトリーヌ・ドヌーヴ演じるスザンヌは、お嬢さん育ちで裕福な家庭の主婦。ひょんなことから夫の雨傘工場の経営を任されることになる。

原題のPOTICHE(飾り壺: 装飾用の壺で、美しいが実用的ではない)のように、きれいなだけで、世間知らずのつまらない家庭の主婦。経営のことなどわかるはずがないとバカにされていたスザンヌだったが、ひとたび経営権をわたされてみれば、次々と問題を解決し、ひとびとの支持を集めていく。

けっして斬新な経営テクニックや懐柔策を駆使しているわけではない。ただもう、純粋に、彼女の人柄が、人々を動かしていくのだ。

優しくて、思いやりがあって、面倒見がよくて、暖かくて、包容力がある。敵対や裏切りにあっても、どんと構えていておおらか。敵でさえ、包み込んでしまうような器のおおきさなのである。

女性的な魅力とリーダーシップは共存がむずかしいものだが、スザンヌに至っては、どんなに激しく言い争うようなシーンでも、ひどい裏切りにあうシーンでも、女性としてのかわいらしさや、エレガントさを失うことはない。

怒っているのに、気品があって美しく、文句を言っているのに、お茶目でかわいらしい。どんなときも相手を責めたり、貶めたり、妬んだり、憎んだりということがない。

こんな調子だから、結局さいごには敵も味方も裏切り者も、みな彼女に魅了されてしまうわけなのである。実際、映画を観ているわたしまで、すっかり”スザンヌファン”になってしまったほど。

エンディングちかくで、スザンヌをたたえる群衆から「ママン! ママン! ママン!」とコールがわきあがるシーンがあるのだけれど、気づけばいっしょになって「ママン!」と心の中でコールしている自分がいて、笑ってしまった。

コールしながら、ふと思った。

ママン(MAMAN

そう、これぞ、年をかさねた女性の魅力だと。

ママン、とはフランス語でママの意味。

母性、といったほうがわかりやすいかもしれない。母性とは、子供を産み育て、無償の愛情をそそぐ母としての性質、である。が、ここは少し解釈をひろげて、次世代のひとびとを育て、無償の愛情をそそぐ母のような性質、としたい。

スザンヌのように、母のような目でみれば、生意気な部下も、器のちっちゃい夫も、裏切り者のビッチだって「かわいいものだわ」と思えてしまうものかもしれない。その余裕が優しさになり、ふところの深さになり、愛される理由になる。

ただ、それだけだと、ただの「オカン」になってしまう危険性もあるのだけど、スザンヌの場合、それだけではない、というところがポイントで。

女として男性に惚れられる恋愛相手としても現役だし、妻とか母とかいう役割に閉じ込められることなく、ひとりの人間として女性として、自由に人生を謳歌している。お飾りのPOTICHE、つまらない主婦、だと思っていたら大まちがいなのだ。

ひとに優しく、寛容になれるのも、自らが満たされていて、自立しているからこそ。

スザンヌの「ママン」力は、そういう充実感や自信からにじみでるものであって、意図されたものではないというところが「女子力」とは決定的にちがう。

残念ながら「ママン」力は、一朝一夕に身につくものではなさそうだ。画一的なハウツーでもなく、攻めの姿勢で手に取る武器でもない。そもそも「めざす」ものでもない。でもだからこそ、大人の女性が時間をかけて身につける価値があるのかもしれない。

それにしても、女というのはつくづく大変だ。

こんな風に、映画を観てアレコレ考えるのは楽しいけれど。

せっかくなので今週は「シェルブールの雨傘」もひっぱりだして観てみようか。。

シェルブールの雨傘 デジタルリマスター版(2枚組) [DVD]

*女優カトリーヌ・ドヌーブとしての武勇伝も、なかなかすごくて勉強になります。このエピソード、「しあわせの雨傘」のスザンヌにも通じるような。。

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