夏の終わりのヴェネツィアは、アメリカ人観光客だらけ。
経済的に幅を利かせていいはずのアジア系や、地理的に有利なはずのヨーロッパ系は、いったいどこ?
そう首をかしげたくなるほど、聞こえてくるのはアメリカ英語ばかりである。
アメリカ英語が苦手なので、ストレスセンサーが過剰反応してるだけかもしれない。
それとも、アメリカ人の声が世界標準よりデカいだけなのかもしれない。
理由はともかく。。
今日こそは、アメリカ英語が聞こえてこない、しずかな場所で食事がしたい!
その一心で、行き当たりばったり路地に入ってみつけたのが、アントネッラさんのオステリアである。
Photo by http:// www.scattidigusto.it
Osteria Ca’ del Vento
レースのかかった窓に看板がでていた。
入り口にはり出されたメニューを、上からひとつずつ読み上げてみると、オーソドックスだけど、どことなくこだわりをかんじるメニュー。
値段が庶民的なことや、品数がやたらと多くないことにも好感がもてた。
それにしても、通りに出されたテーブルはガラガラ。
先客がいないレストランに入るのは、ちょっと勇気がいるものである。
が、思いだしてほしい。
先客がいないということはつまり、アメリカ人もいないってことなのだ。
ここにしよう!
「ヴォナセーラ」
バンダナを頭に巻いた女性がキッチンから出てきた。
このちょっとトニ・コレット似の女性が、シェフのアントネッラさん。
「予約は?してある?」
エプロンで手をふきながら言った。
ガラガラなのに?という、そぼくな疑問はのみこんで、すなおに「ない」と告げる。
「そう、じゃ、どこでも好きな席にどうぞ」
それならなおさら最初の質問は、必要なかったのでは?
余計なことは言わず、おとなしく入り口ちかくのテーブルについた。
つきだしのフォカッチャをつまみながら、しばしメニューとにらめっこ。
熟考の末、注文したのがこちら。
- 「ナスとモッツァレラチーズのオーブン焼き」
- 「セサミマグロのソテー/赤タマネギのビネガー煮」
- 「タリアータ/ローズマリーポテト」
- 「ズッキーニとミントのオリーブオイル炒め」
フォカッチャの時点で、すでにいい予感はしていたのだけれど、はたして。
運ばれてくる料理はどれも、ひとくち口に運ぶたびに、私たちを幸福な気分にさせるものばかり。
これっていったいなんだろう?
星付きレストランなどとはまたちがう、ふしぎな幸福感なのだ。
きどったところのいっさいない家庭料理なのに、それでいてありきたりじゃない。
アントネッラさんのレシピはどれも、素材が生きていて、料理のツボがおさえられていて、しかもユニークなのだ。
きけば、もともとプロの料理人ではなく、「ただ家族や友人のために料理をつくるのが好きだっただけ」というアントネッラさん。
なるほど、それが料理にあらわれているのである。
そう。
まるで、料理好きの友だちの家に、招かれてるみたいなかんじなのだ。
おいしいものが好き、料理が好き、友だちや家族をよろこばせるのが好き。
そんな「好き」のチカラが、アントネッラさんの料理にはみなぎっている。
この「好き」のチカラこそが、ふしぎな「幸福感」の正体なのだった。
何かを「好き」になるって、なんてパワフルなんだろう!
しめのティラミスで、とどめをさされるころ。
アントネッラさんのオステリアは、予約客や常連客でいっぱいになっていた。
アメリカ英語は、聴こえてこない。
「グラッパ?」
デザートを終えた私たちに、アントネッラさんが聞く。
もちろんこたえはイエス!
あの笑顔ですすめられたら、断るわけにはいかない。
今夜はふたり、千鳥足で帰ろう🎵
http://www.osteriacadelvento.it
*ところでアントネッラさんは、もともとプーリア地方の出身らしい。プーリア、といえば、どこかで聞いたことのあるような、と思ったら、以前このブログで書いた「ミラノの路地裏リストランテ」も、ミラノにありながらプーリア料理のレストランなのだった。ヴェネツィアとミラノ。ぐうぜん路地裏でみつけた名店が、両方ともプーリアって。これはもうプーリアに行くしかない!・・・・・プーリアってどこだ?