ひさびさに、恋に落ちてしまいました♩
年にいちどの、カルージュのアンティークフェア。
ジュネーブに移り住んでから、ほぼ毎年のぞいているこの骨董市で、かならず立ちよるお店があります。
洗練されつつ、どこかあたたかみのある品々は、店主のカトリーヌさんの、おメガネにかなったものばかり。
客足の絶えない人気のお店で、今年ひときわ目をひいていたのが、店頭にしつらえたテーブルセッティングです。
真っ白なクロスをかけた大きなテーブルに、ならべられた5ピースのプレイスセッティングは、1950年代のリモージュです。
やわやかなリネンの白、カトラリーの銀、クリスタル、そしてお皿のつめたい白。
さまざまな質感の「白」を重ねたテーブルに、絵付けのグリーンがすがすがしく、目にした瞬間「森のテラスでランチ」しているような妄想にとらわれてしまいました。
リモージュの内がわから発光するような白と、うすくて硬質な質感には、ずっと憧れていたのです。
直線的でシンプルなかたちに、さっぱりとした色づかい。
それでいてちょっとレトロなかんじの絵柄が、いい具合にリラックス感をかもしだしていて、すごくすごくいいなぁと思いました。
と、いま、こうしてごちゃごちゃごたくをならべているのは
「いったい、どのようなわけで恋におちたのか?」
説明しようと試みているわけなのですが、どうも言葉を重ねるほどに、本当のところからは遠ざかっていくような気がします。。
まぁ早い話が、ひとめボレなのです!
「全部で60ピースそろっています」
カトリーヌさんが、お皿を手にとって説明してくれます。
「残念ながら、ディナー皿だけ8人分しかないのだけど」
8人分もあれば、わが家にはじゅうぶんです。
「食洗機も、OKですよ」
ほぉ、それはますますすばらしい!
「お値段は、2500フランです」
ふむふむ、衝動買いできる値段ではありませんが、新品でそろえるとなれば、この何倍もするでしょうからね。
聞けば、聞くほど、ほしい!!!
ためらう理由はありませんでした。
が、目を覚ます必要はありました。
まず、確認しておく必要があるのは、洋食器のフルセットはすでに一式持っている、ということです。
つぎに、わが家のキッチンのどこに、60ピースものフルセットを収納するスペースがあるでしょうか?
ついでに言ってしまえば、既存の洋食器のフルセットを活用する機会が、これまでどれだけあったでしょうか?
冷静に考えれば、そもそも、検討の余地などこれっぽっちもないのです。
足を止め、ちらっとでも検討する。
それじたいが、まったくもってゲンジツ的ではなかったのでした。
けっきょく、うしろ髪をひかれつつ、お店をあとにしました。
そして、歩きながら思いました。
これこそが「恋に落ちる」ということではないでしょうか?
だれかに心惹かれるのに、ゲンジツ的な理由なんて、必要でしょうか?
元来、恋に落ちる、ということは、ゲンジツ的なことではないのです。
必要なのは、いずれかの時点で目を覚ますこと。
それだけなのです。
・・・
物欲をふりきるため、思考をあらぬところまで飛躍させてみました。
でも、けっきょくのところ未練タラタラです。
曲がり角をまがる前に、もういちどだけ、ふりかえってみました。
ちょうどベビーカーを押したカップルが、あのリモージュに足を止めたところでした。
みのらなかった恋の相手の、その後がひじょうに気になるわたしなのでした。