くららの手帖

ローヌの岸辺暮らし、ときどき旅

片思いのリモージュ

ひさびさに、恋に落ちてしまいました♩

年にいちどの、カルージュのアンティークフェア。

ジュネーブに移り住んでから、ほぼ毎年のぞいているこの骨董市で、かならず立ちよるお店があります。

f:id:sababienne:20180308193251j:plain

洗練されつつ、どこかあたたかみのある品々は、店主のカトリーヌさんの、おメガネにかなったものばかり。

客足の絶えない人気のお店で、今年ひときわ目をひいていたのが、店頭にしつらえたテーブルセッティングです。

真っ白なクロスをかけた大きなテーブルに、ならべられた5ピースのプレイスセッティングは、1950年代のリモージュです。

やわやかなリネンの白、カトラリーの銀、クリスタル、そしてお皿のつめたい白。

さまざまな質感の「白」を重ねたテーブルに、絵付けのグリーンがすがすがしく、目にした瞬間「森のテラスでランチ」しているような妄想にとらわれてしまいました。

リモージュの内がわから発光するような白と、うすくて硬質な質感には、ずっと憧れていたのです。

直線的でシンプルなかたちに、さっぱりとした色づかい。

それでいてちょっとレトロなかんじの絵柄が、いい具合にリラックス感をかもしだしていて、すごくすごくいいなぁと思いました。

f:id:sababienne:20180308193329j:plain

と、いま、こうしてごちゃごちゃごたくをならべているのは

「いったい、どのようなわけで恋におちたのか?」

説明しようと試みているわけなのですが、どうも言葉を重ねるほどに、本当のところからは遠ざかっていくような気がします。。

まぁ早い話が、ひとめボレなのです!

「全部で60ピースそろっています」

カトリーヌさんが、お皿を手にとって説明してくれます。

「残念ながら、ディナー皿だけ8人分しかないのだけど」

8人分もあれば、わが家にはじゅうぶんです。

「食洗機も、OKですよ」

ほぉ、それはますますすばらしい!

「お値段は、2500フランです」

ふむふむ、衝動買いできる値段ではありませんが、新品でそろえるとなれば、この何倍もするでしょうからね。

聞けば、聞くほど、ほしい!!!

ためらう理由はありませんでした。

f:id:sababienne:20180308193340j:plain

が、目を覚ます必要はありました。

まず、確認しておく必要があるのは、洋食器のフルセットはすでに一式持っている、ということです。

つぎに、わが家のキッチンのどこに、60ピースものフルセットを収納するスペースがあるでしょうか?

ついでに言ってしまえば、既存の洋食器のフルセットを活用する機会が、これまでどれだけあったでしょうか?

冷静に考えれば、そもそも、検討の余地などこれっぽっちもないのです。

足を止め、ちらっとでも検討する。

それじたいが、まったくもってゲンジツ的ではなかったのでした。

けっきょく、うしろ髪をひかれつつ、お店をあとにしました。

そして、歩きながら思いました。

これこそが「恋に落ちる」ということではないでしょうか?

だれかに心惹かれるのに、ゲンジツ的な理由なんて、必要でしょうか?

元来、恋に落ちる、ということは、ゲンジツ的なことではないのです。

必要なのは、いずれかの時点で目を覚ますこと。

それだけなのです。

・・・

物欲をふりきるため、思考をあらぬところまで飛躍させてみました。

でも、けっきょくのところ未練タラタラです。

曲がり角をまがる前に、もういちどだけ、ふりかえってみました。

ちょうどベビーカーを押したカップルが、あのリモージュに足を止めたところでした。

みのらなかった恋の相手の、その後がひじょうに気になるわたしなのでした。