くららの手帖

ローヌの岸辺暮らし、ときどき旅

キャンドルの木

「キャンドルの木」と呼んでいる木があります。

枝のさきっぽから、円すい形の白い花が、空にむかっていっせいに咲くと、それはまるで、おおきな燭台にたてた、無数のキャンドルに、灯がともったようにみえるのです。

6年前のちょうどゴールデンウィークに、はじめてジュネーブにきたとき、街のここかしこにこの花が咲いていました。

「これってなんの花?」と私がきくと、夫が「キャンドルツリーだ」と教えてくれました。

それ以来、じつをいうとつい最近まで「キャンドルツリー」が正式名称だと、おもいこんでいました。

ほんとうの名前は、マロニエ(英:チェスナット)。

西洋栗の木です。

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2月、まだつめたい空気の中で、一番に春の兆しを告げる、スノウドロップにはじまり、かたくり、クロッカス、プリムローズにスミレ、、ときて、このマロニエの花が咲くころには、いっきに木々の若葉が芽吹いて、新緑の季節のはじまりです。

「またこの季節がきたなぁ」

はじめてジュネーブに来たときに咲いていた花、というのもあるかもしれませんが、この花が咲くと、季節と時間がめぐるのをからだで感じます。

そんな象徴的な花という意味で、わたしにとってマロニエは、日本の桜とちょっと似ているかもしれません。

桜が恋しいように、いつかこの街を離れることになったなら、きっとこのキャンドルツリーのことを、なつかしく思い出す事になるにちがいないと、いまから確信している花なのです。

ところで、この時期になると、花を咲かせるのはマロニエだけではありません。

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リラ、マグノリア、ウィステリア(藤)、アゼリア(つつじ)、チューリップ、アイリスなど、街じゅうが花でいっぱいになります。

街を歩いていると、いろんな花の匂いがまざりあった甘い香りが、風にのってただよってくる、そんな初夏の陽気にさそわれて、外にはいだしてくるのは、虫たちだけではなく。

冬のあいだ、がらんとしていたカフェのテラスも、今週末は、サングラス姿のひとたちで大にぎわい。

わたしも、今シーズン初のテラス席デビューをはたしました。

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花なんて。

若いころは、まったく興味もありませんでした。

いっしょに海外旅行に行くと、世界遺産そっちのけで道端の雑草に足をとめ「これは何の花かしら?」と聞いては、添乗員の女の子を困らせる母に、あきれていたわたしだったのに。

気づけば、いま、母とおなじことをしています。

「このごろ、おばあちゃんがしてたのと、おなじことしてるのよねぇ」

母も、そういって笑います。

年をかさね、そのときの母の年齢に追いついて、やっとわかることもある。

大きな時間のめぐりの中で生きていること。

そのことを感じるとき、ゆりかごに揺られているように、やすらぎます。

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テラス席でランチをとった後の帰り道。

スーパーで、リラの花束が売られていたので、ひと束買ってみました。

レジの女性が、ピッと値札をスキャンしながら、思いっきりリラの花束に顔をうずめて、匂いをすいこむこと三秒。

「す・て・き」

うっとりした顔で、花束を手渡してくれました。

その顔が本当にうっとりしていたので、こちらまですてきな気分になって、帰ってきました。

“お客さまがお買い上げの商品”に顔をつっこむ、そのユルさ。

キライじゃありません♩

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