くららの手帖

ローヌの岸辺暮らし、ときどき旅

川のながれに身をまかせ♪

おきたらまず窓をあけ、ベランダにやってくる鳥たちのためにエサをやる。

それからひとしきり、ローヌ川のながれをながめる。

まるで、隠居したおじいちゃんみたいだけど、これがわたしの朝の日課だ。

季節をおしえてくれるのは、樹木や草花だけではない。

飛来する鳥たちにも夏には夏の、冬には冬の、それぞれの顔ぶれがあっておもしろい。

いまの時期なら、ツバメだ。

濃いブルーの空に、くっきりと黒いちいさな機影のコントラストをつけ、空たかくてんでの方向に飛びまわるようすには、まるで秩序というものがない。

キーキー甲高い声をあげながら、こどもが鬼ごっこしているようにもみえるツバメたちをみあげて、わたしは夏の訪れをしる。

ローヌ川には、じつにさまざまな水鳥たちが生息している。

白鳥、かるがも、かもめに、名前もしらない不思議なもようの鳥。

こちらはいつもおなじ顔ぶれだけど、ローヌの流れにのってすぃーっと泳いでいく姿が優雅で、おもわずみとれてしまう。

先週のある朝のこと。

水鳥にしてはやけに大きな、みなれぬ鳥が流されてきた。

新種の渡り鳥だろうか?

それは水鳥たちの優雅さにはほど遠く、ときおりバシャバシャともがくように水をかいている。

それも、一羽、二羽どころか、十、二十。

こちらがアッと思っているうちに、つぎからつぎへと流されてくる。

よーく目をこらして、見てみた。

流されてくるのは、人間だった。

そうするうちにも、次から次へと、流しそうめんのように、人間が流されてくる。

「ことしも夏本番ですねぇ」

いつのまにか、となりに立っていた夫が、しみじみそうつぶやいた。

そう。

季節の訪れを告げてくれるのは、草花や鳥たちだけにあらず。

ローヌ川では、人間が流れてくるようになると、はじめて夏も本番といえるのだ。

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*人間流しそうめんが投入されるのは、ふつうに車がゆきかう橋。

それにしても、ことしは流れてくる人間の数が、やたらにおおい。

考えてみたのだけど、その一番の理由は、やっぱり先週からヨーロッパを襲っている猛暑だとおもう。

なにしろこの熱波は、MADE IN サハラ砂漠、という筋金入り。

フランスでは45度を記録したと、ニュースで伝えられていてびっくりしたけれど、ジュネーブでも連日猛暑日がつづいている。

従来ならば、日陰にはいればじゅうぶん涼しく、湿度が低いのでカラッとしているジュネーブの夏、ほとんどの家にはクーラーがない。

クーラーはないけれど、かわりによく冷えたスイスアルプス天然水でみたされた湖と川ならある。

涼を求めるなら、川もしくは湖にとびこむのが、いちばんてっとり早いのだ。

  • 川、湖で泳ぐ。
  • 標高1500m以上の山に行く。
  • 冷水シャワーを浴びる、冷水風呂につかる。
  • 家では裸ですごす。
  • 朝、空気を入れ替えたら、窓とブラインドを閉めきって、熱気をシャットアウトする。
  • 用事は、涼しい朝のうちにすます。
  • キンキンに冷やしたロゼワインを飲む。
  • チーズフォンデュと、ラクレットは夏のあいだは食べないようにする。

などなど、スイスにきて教わった「暑さのしのぎ方」はいろいろあるけれど、最近あらたに教わった方法は、ちょっと画期的だった。

  • 地下のワインセラーで寝る。

これを教えてくれたSさんは新婚さんなのだが、

「ワイン飲んで、そのまま寝られるんだから最高よ」

と、なんだかとっても楽しそう。

だんなさまと二人分のマットレスとワイングラスを運びこみ、飼っている猫二匹といっしょになかよく快適に眠っているそうだ。

聞いているうち、まるでサマーキャンプの話でも聞かされているように、こちらまでワクワクしてしまった。

ざんねんながらわが家にワインセラーはないから、とあきらめていたのだけれど。

そういえば、ワインを保管しているアパートの共同物置が地下にあるのだ。

有事には核シェルターにもなる仕様なので、ぶあつい鉄のとびらが二重についており、あそこならば放射能のみならず、熱波もシャットアウトしてくれるにちがいない。

ううむ。

試してみる価値あり、、かもしれぬ。

幸か不幸か、今週になってやっとひと息ついた猛暑。

つぎの熱帯夜が待ちどおしい。

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 *泳ぐには大河すぎるローヌ川。おだやかにみえて、けっこう流れは早いし、もちろん大人でも足はつきません。あつい、あつい、と文句をいいながら、みんな夏が大好き。