SABAすたいる

スイスのくらし、旅のエッセイ、日々のできごと、おもうこと。

サイン入りのフランスパンと、ぶどう畑の休日。

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週末、ラヴォーのぶどう畑を歩いた。

レマン湖畔の町キュリーの船着場から、ハイキングの黄色い目印をたどっていくと、湖からゆるやかに登っていく斜面には、いちめんにふるい石垣に区切られたぶどう畑がはりついている。

ワイン造りのためのぶどうの収穫は、もうほとんど終わっているらしく、葉陰にわずかのぶどうが残るのみ。ぶどう畑は全体がほんのり黄みを帯びていて、もうあと1、2週間のうちには丘全体が黄金色にかがやく、あの季節がやってくることを告げていた。

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ジグザグとぶどう畑をぬうようにつづく石畳の道のむかう先は、丘のうえの町エペス。ちいさなワインの醸造所がぽつりぽつりとならぶ、メインストリートと呼ぶにはあまりにひそやかな目抜きどおりを歩くと、ぶどうをしぼっているのだろうか?軒先にみえるおおきなタンクやバケツのかげから、機械の音といっしょにむわっと甘いにおいが漂ってくる。

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もちろん、ここにきたらみんなのお目当てはワインである。

日曜日とあって扉を閉ざす店がほとんどの通りで、ただ一軒店を開けていたオーベルジュは、ハイキング客で大にぎわい。

ここではキュリー、エペス、デザレー、、いましがた歩いてきたぶどう畑から収穫され、この地域で醸造されたワインをグラス一杯から注文できる。

わたしたちはしばし無言で、わたされたワインのメニューと、黒板に書かれた料理のメニューとを、交互ににらめっこしながら思案する。

まわりをみわたすと、ちがう種類を飲み比べしている若いカップルに、フルコースでじっくり料理とワインを楽しむ中国人の女の子たち、そのとなりでは、山盛りのチーズと干し肉をつまみにすっかりできあがったおじいさんのグループが、それぞれのスタイルでワインを楽しんでいる。

熟考のすえ、朝ごはんをたくさん食べすぎて、お腹があまり空いていなかったわたしたちは、ソーセージとレンズ豆を煮たものを一皿と5dlのワインを半分こすることにきめた。

こんな注文のしかたをしたら、きっと商売あがったりだろうな。

ちょっと気がとがめたのだけれど、よくみるとワインだけ注文して話しこんでいるひとたちもいたりして、お店のひともそんなことはまったく気にしていないようだ。

さらによく観察してみると、カウンターにはハイキング客にまじって、いれかわりたちかわり、よく日に焼けたおじさんがひとりでフラッとやってきては、ワインをグラスに一杯だけひっかけてでていくのに気がついた。

にこにこ楽しそうにお店の人と軽口をたたきながら、スイッとグラスを空ける。それから、親しげにほっぺとほっぺを合わせると、お店をでていく。それは地元のぶどう農家のおじさんたちなのだった。

ぶどうとおなじ日を浴びて、こんがり日焼けした笑顔がチャーミングなおじさんたち。こんな人たちが育てたぶどうからできたワインなのだとおもうと、ワインもいっそう味わい深くかんじられるというものだ。

ついおかわりしたくなってしまったけれど、車の運転があるのでがまんして、つづきは醸造所でワインを買って帰り、チーズとフランスパンで簡単な夕ごはんにすることにした。

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帰り道、パン屋でフランスパンを買ったら、パンにひもで名札がくくりつけられていた。

みると名札には「パン職人」とあり「Pascal」とボールペンでサインがしてある。

署名入りなんてちょっと大げさすぎない?

さいしょはおもしろがっていたわたしたちだったのだけれど、食べてみたらこれが、本当においしくてびっくりした。

それはパンにはうるさい夫も「署名するだけのことはあるな」とうなるほどで、来週からはパスカルさんを指名買いしよう!と意見が一致した。

エペスのおじさんたちのワインと、パスカルさんのフランスパン。

わたしたちは味のむこうにつくり手の気配を感じながら、最高にぜいたくな夕ごはんをしみじみ味わったのだった。

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*ちいさなワイン醸造所が、あっちにもこっちにも。

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*軒先には、絞りかすのぶどうがどっさり。ぶどうの木の根元に肥料として与えらえているのをみかけました。

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*見晴らしのいい高台の公園からの、パノラマビュー。こんなすばらしい景色のなかで育てられたぶどう、景色もワインの味にとけこんでいるにちがいない!

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*黄金色に染まる10月末に、もういちど来てみたい。