くららの手帖

ローヌの岸辺暮らし、ときどき旅

クリスマスカードを書く

午後、クリスマスカードを書く。

コーヒーをいれ、ペンを用意し、買っておいたカードをテーブルにひろげる。

先週、ブラシャール(ふだんは行きつけない高級文房具店)でみつけたカードは、もみの木が描かれたシンプルなものだ。

手刷りの絵柄は、撫でるとかすかな凹凸が指に触れ、ななめに透かしてみると、色味や筆致の繊細さに思わず目をみはりたくなる。

クリスマスソングをかけ、カードの美しさを愛でながら、まずはコーヒーをひとくち。

うっとりしていると、夫がいった。

「あのさー、ボーッとしてないで(怒)さっさとすまそうよ」

さっきから隣でしゃかしゃかと、せっかちにペンを走らせる音が、うるさいなぁと思ってはいたのだけれど……。どうやらこの人には「クリスマスカードを書く」プロセスを、楽しもうという発想はないらしい。

むろんこれは、今にはじまったことではなく。たとえばマルシェでゆっくり店主とのおしゃべりを楽しんだり、味見したりするよりも、買い物はスーパーでちゃっちゃと済ませたいタイプだし、空港や信号の待ち行列では、だれよりも早く通り抜けたくてうずうずしている人なのだ。

人生の9割はプロセスだというのに……。

いったい何に駆り立てられているというのだろう?

わたしにはさっぱりわからないのだけど、いつだったかそういうと「さっぱりわからない」というわたしの気持ちが「すんごくよくわかる!」と同意してくれる友だちがあった。彼女のだんなさんもふだんはおっとりしている人なのに、レジで品物を袋にいれる作業となると、競争心にめらめらと火がつくらしい。

「もたもたしてると、イライラされるから大変だよー」

と、苦笑いするその友だちとは、

「でもさ、あれっていったい何と競争してんだろね?」

という点で、おおいに意見が一致したのだった。

夕方、気をとりなおして、リサイクルゴミを出しにいく。

ガラス、アルミ、ペット……と分別されたボックスは、ゴミを小さな投入口から投入すると、地下に埋もれた巨大なコンテナに落ちていくよう設計されている。中でもガラス用のものには、底に剣山のようなものが仕込まれているらしく、がしゃーん、がしゃーん。ワインのびんを投入するたび、ガラスが粉々に砕け散る音が、盛大に地下のコンテナにこだまする。

「あぁ〜、きもちいい!」

ふいにさわやかな声がして顔をあげてみれば、酒屋もびっくりの手さばきで、大量のワインボトルを超高速で投入し終えた夫が、心底幸せそうに微笑んでいた。

ガラスの割れる音を聞くと、スッキリするそうだ。

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*何に幸せを感じるかは、人それぞれ。