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SABAすたいる

スイスのくらし、旅のエッセイ、日々のできごと、おもうこと。

レーティッシュ鉄道の車窓から、鉄子の血がさわぐ。山岳リゾート・アローザですごすスイスの秋(10)

山のバカンス

トラブルというのは、いつだって「よりによって」という時と場所でおきるモノである。

アローザでの一週間のトレッキングウィークも最終日。帰宅の途についた私たちの車のエンジンが停止したのは、スイス西端にある自宅から450kmはなれた、スイス東端の山中だった。

アローザからクールに向かう、曲がりくねった急勾配の山道をくだっているときである。片側は切り立った崖ぞいで、道幅もひろいとはいえない急カーブの道をドライブするのは、助手席に乗っているだけでも緊張するものだ。

「あっ、なんか、車、おかしい」

夫がちいさくさけび、車から急に力がぬけるのを感じたときには、思わずぞっとした。さいわい少し先の路肩にスペースをみつけ、なんとか車を停車することはできたものの、停止したエンジンがかかることは二度となかったのである。

「故障したのがブレーキじゃなくてよかった」とか、

「対向車や後続車と事故にならなくてよかった」とか、

「エンジン停止したのが飛行機じゃなくてよかった」とか、

せめてモノゴトの良い面をみようではないか、となぐさめてみるも、自宅から450kmはなれた山中に愛車を置き去りする夫のユウウツは、そう簡単に晴れそうにない。

わが家の車は、後日レッカー移動されることになり、TCS(スイス版JAF)のお兄さんの車で送ってもらったのは、最寄り駅のLangweisである。

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グラウビュンデン州の州都クールから、アローザまで走っているレーティッシュ鉄道アローザ線の駅だ。

浮かない顔の夫の手前、不謹慎とはおもいつつも、シャレースタイルのかわいい駅舎にときめきを止められない私。

レーティッシュ鉄道、といえば、聞き覚えのあるかたも多いのではないかと思う。というのも、かの有名な氷河特急も、サンモリッツからティラーノまでゆくベルニナ特急もこのレーティッシュ鉄道なのである。

じつは、私、鉄子、とまではいかないまでも、鉄道の旅が大好き。

世界の車窓から」なんて毎回楽しみにみていたし、ひとりで旅するときはたいてい電車なのだけれど。。夫が車好きなもので、じつはスイスに住んでいるのに、スイスの有名どころの鉄道はいまだ未体験なのだ。

あこがれのレーティッシュ鉄道に乗れる!るん♪  

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きた!(アタマの中には、もう世界の車窓からのメロディーが流れてます)

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 アルプスの緑に映える、かわいい赤の車両。

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車内のテーブルに描かれたレーティッシュ鉄道の路線図。グラウビュンデンの地域を網羅するスイス最大の私鉄、なのだそう。クールで、これはお城?と間違えたのがレーティッシュ鉄道のオフィスビルディングだったことを思い出した。

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ランヴィース橋 Photo by Peter Alder

岳鉄道として、とても高い技術をもつレーティッシュ鉄道。よくもこんな切り立った山の中を、というような場所にトンネルや橋が架けられていて、急斜面にへばりつくようにしてすすむアローザ線は、見応えたっぷりであった。

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1時間弱でクールの駅に到着。

SBBに乗りかえて、わが家に向かう前に、一歩先に帰宅しているはずの義姉に電話をかけた。本来なら、チューリッヒの義姉宅に一泊して義母たちと夕食を共にする予定だったのである。

電話を切った夫が、意外なことを口にした。

「今、マイエンフェルトにいるらしい」

マイエンフェルトはごぞんじハイジの舞台となった村。

「どうしてお義姉さんがマイエンフェルトに?」

アローザからチューリッヒに行く道中にあるので、車が故障しなければ行く予定だったのはわたしたちのほうなのだ。じつはなんども通り過ぎているのに立ち寄ったことがなく、ハイジとともに育った私としてはぜひとも一度訪ねてみたかった。

前日、いっしょに寄って行きませんか?とさそったのに、

「えー、でも、何もないところよねぇ」

「日本人観光客しかいないんでしょ」

などとつれない反応で「わたしたちは、よしとくわ」と冷ややかにお断りされたのは、記憶に新しいところなのだけれど。。

ともあれ、義姉夫婦。お天気も最高で、ハイジの家や村の散策を満喫したらしく、

「こんど機会があったら是非行くといいわよ」

と絶賛していたそうで。。

それはそれは、よろしゅうございました。苦笑いするわたしになぐさめ半分で、SBBの車窓からもマイエンフェルトが見えるよ、と夫が言う。

というわけで、せめて車窓から写真の一枚でもとって今日のところは満足しておこうと気をとりなおし、チューリッヒ行きのSBBに乗り込んだ私たちなのだけど。

つくづくマイエンフェルトには縁がないもよう。

窓にへばりついてずっとスタンバっていたのだけれど、かんじんのその瞬間、車掌さんが検札にやってきて、車窓からのマイエンフェルトも見逃すことになる、というオチがまっていたのだった。

まぁ、おもいがけず念願の鉄道の旅ができたからよしとするか。

今度はどこの路線を旅しようかな?

これに味をしめてつぎの鉄旅に思いをめぐらせる私である。

(追伸:あれから一週間後、わが家の愛車も、修理を終えてぶじ帰宅しました)

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*アローザから持ち帰ったおみやげたち。ヌストルテは蜂蜜とくるみのフィリングがたっぷりはいったエンガディン地方のケーキ(上)。お店によってレシピがちがうので好みのものをさがすのも楽しみのひとつ。パン屋さんやケーキ屋さんの手作りのものがやっぱり美味しい。下は、左から、スパイスとお酒のきいた洋ナシブレッド、エーデルワイスの形のパスタ、ラズベリーの手作りコンフィチュール。