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スイスのくらし、旅のエッセイ、日々のできごと、おもうこと。

忙しい病。

「バタバタしてて」が口癖だった時期がある。 その頃のわたしときたら、かずかずの不義理や不精の言い訳を、この口癖ひとつですませていたようにおもう。 残業する人が仕事熱心で、休む暇もないほど仕事を任される人が優秀。「忙しい」のが良くて「暇」は悪…

ナザレの毛布

ちょっとだるいな、疲れたな、頭が重いな。 そんなとき体を温めると、とたんに楽になる。 緊張したり、気がはったり、落ち込んだりしたとき、気づくと手足が冷たくなっていることがある。そんなときもやっぱり、暖かい飲み物を飲んだり、お風呂に入ったりす…

絵本の中のクニット君と、リアルのクニット君のお話。

ムーミンシリーズ全9巻を、読み終わった。 読みはじめたのは、東京でムーミン展に行ったとき。 アニメは子どものころさんざん観たものだけれど、そういえば小説は読んだことがなかったな、と思いたってからだから、かれこれ一年以上もかかってしまった計算に…

向日葵通り一丁目。いま此処で、この人と

T・o・u・r・n・e・s・o・l・s… カーナビに、住所をうちこむ、手が止まる。 向日葵(ひまわり)通り一丁目! 夕ごはんに誘ってくれたその友だちが、こんなかわいい名前の通りに住んでいたとは、今までまったく気づいていなかったのだった。 ジュラ山脈の麓に…

顔がすべて。

スマホの顔認証機能って、すごい。 メガネをかけてても、ものすごい角度からでも、真っ暗でもちゃんと認識してくれる。 いったいどうなってるのだろう? 八年近く使っていたスマホを、買い替えたばかりのわたしは、科学の進歩にすっかり感銘を受けていた。 …

優しい嘘

証明写真といえばいまも昔も頭痛のタネ。スイスにきてからというもの、その頭痛はひどくなるいっぽうである。 靴修理店の片隅にある証明写真サービスに、レフ板などはあるはずもなく、照明は切れかかった蛍光灯。髪を整える用の鏡もなければ、時間もない。 …

三つ子のたましい、なんとやら

小学校の卒業文集をめくっていたら、一人に一ページ、そのひとが「どんな人か」をクラスメイトが一行ずつ書いてあるコーナーがあった。 頭がいいとか、スポーツが得意とか、色が白いとか、顔がながいとか、羊ににているとか。 まとを射ているものから、意味…

あの日、エレベーターで。

エレベーターのとびらが開くと、久しぶりにムッシュー・ボンジュールの顔があった。 「ボンジュール!」 いつものように地下の駐車場までの数秒間、ひとことふたこと言葉を交わす。 そんなわずかな会話の中にも、上品さとユーモアがにじみでる、ムッシュー・…

おしゃべりな猫

そとを出歩く時間がへったぶん、ベランダですごす時間がふえた。 「キャンドルの木」とよんでいる、マロニエの木が芽吹きはじめたなぁとおもったらもう、いまではそのキャンドルが花をつけている。 ベランダでごはんを食べたり、本を読んだりしていると、そ…

夜空に、メルシー!

あのあと。 (というのは、「濃厚接触を避け、ナマステにしておきなさい」と父から忠告を受けたことを、ココに記したあとのこと) じつは、ナマステすらできない事態におちいっていた。 人混みを避け、濃厚接触を避け、あんなに気をつけていたはずなのに。 …

おどらされず、ナマステ。

朝、窓をあけると、空高くとんびがスーッと横切っていった。 くちばしに、木の枝をくわえ、巣作りにせいをだしていた。 朝の空気は、まだ冷たい。 あわてて窓をしめて、キッチンにもどると「マロニエの芽吹きが、観測された」とラジオが告げていた。 スイス…

シェパーズ・パイ教室、いつまでも学びたい大人たち。

かつて働いていたころ、ご褒美ランチの筆頭だった、パブランチ。 値段が高いか、カロリーが高いか。 ご褒美ランチのリストには、そのどちらかの理由で、ふだんなかなか足を運べないレストランの名前がならんでいた。 パブランチは、もちろん、「カロリー」の…

ブリティッシュ・エアウェイズ。

こんどはいったいどんな、ひどい目にあうのだろう? ブリティッシュ・エアウェイズに乗るときには、そう思って乗ることにしている。 預け入れ荷物がしょっちゅう行方不明になる、ブリティッシュ・エアウェイズ。 遅延で乗り継ぎできなかったことは数え切れな…

ひとちがい

スーパーマーケットで買い物中、わたしのカゴにお菓子の袋を入れてくる輩がいた。 てっきり夫だと思い「ダイエットするんじゃなかったの?」と咎めて顔をみると、これが赤の他人のおじさんで、つづく言葉をあわててのみこんだ。 気の毒なのは、おじさんだっ…

レネの机

いま必要というわけではないけれど、いつか手に入れられたらなぁ、と思うものを「欲しいものリスト」にして手帳に書き留めてある。 年始め、手帳を新しくするのと同時にこのリストを移しかえる作業が、何となく始まってしまった一年の、ぼんやりした気分にぴ…

カルタヘナの押し売り:のらりくらりコロンビアの休日(4)

その昔、金・銀・エメラルドの交易港として栄えたせいで、カリブ海の海賊のかっこうのターゲットにされたというカルタヘナ。 旧市街をぐるりと包囲する城壁は、まさにそのカリビアン・パイレーツから街を守るために築かれたものだ。 日が暮れるとオレンジが…

ノープロブレム:のらりくらりコロンビアの休日(3)

「ノープロブレム!」 注文したのは、エビのセビーチェよというと、ウェイターの男の子は、大きな黒い目をクリクリさせてそういった。 はずかしそうにわらうと、口もとから真っ白な歯がこぼれ、その笑顔はただでさえ若い男の子をさらに幼くみせた。 あんまり…

胸さわぎのサルサ:のらりくらりコロンビアの休日(2)

きづけばわたしは、30分前にであったばかりのコロンビア人の青年フアンくんと、そのパパ・リカルドさんと、屋上にならべたスノコに川の字に寝転がっていた。 「あ、オリオン座」 などと星座を指さしては、話すともなくただぼんやりと寝そべっていた。 (こ…

ヘッツェマニの朝:のらりくらりコロンビアの休日(1)

コロンビアのカリブ海に面した街、カルタヘナ。 古い街並みがのこる街区・ヘッツェマニにあるホテルの部屋は、朝になっても暗いままだった。 というのもこの部屋、窓はぜんぶ中庭に面しているうえ、開閉できない木製のシェードがはまっている。 暑さをしのぐ…

八年ぶりの返事

誕生日の朝。 メールボックスをのぞくと、ムラーノ島からバースデーメッセージがとどいていた。 今朝、手帳をひらいたら、カレンダーにあなたの誕生日をみつけたから。 久しぶりだけど、元気にしていますか? ムラーノの空の下から、ハッピーバースデー! エ…

サイン入りのフランスパンと、ぶどう畑の休日。

週末、ラヴォーのぶどう畑を歩いた。 レマン湖畔の町キュリーの船着場から、ハイキングの黄色い目印をたどっていくと、湖からゆるやかに登っていく斜面には、いちめんにふるい石垣に区切られたぶどう畑がはりついている。 ワイン造りのためのぶどうの収穫は…

世にも美しい図書館が、教えてくれたこと。

どうして本を読まないといけないの? 夏休みがはじまる前、10歳になる甥っ子が不服そうに口をとがらせていた。 マンガだって、テレビだって、ゲームだっておんなじだよ。 どうして本じゃなきゃいけないの? そう問いつめられた妹は、困りはてていた。 「ため…

ビールとチーズと、赤いチョッキとこぐまパン。

アッペンツェルは、スイスの東の端。 ドイツ国境にほどちかい、ビールとチーズと、赤いチョッキの民族衣装、それから「こぐまパン」という焼き菓子が有名なのどかな街である。 「空色」の絵の具でひたすらぬりつぶしたような、どこまでもつづくあかるい空。 …

災難から、ぼたもち。

ボタンはボタンでも、陶器のボタンというものがある、ということを知ったのは、いつだったか、クリーニングに出したジャケットのボタンが、ボロボロになって返されたときのことだった。 灰色の地に、八つならんだ特大の白いボタン。 それが唯一の装飾で、ボ…

夫が気にいった、香水のはなし。

大人になるとホメてくれる人がいなくなる、と書いたところ、 「国際結婚なら、ダンナさんがホメてくれるでしょ?」 と、いう人がいた。 ダンナさまは、生粋の千葉県人、というM子さんだ。 「キレイだね、ハニー」とか。 「ステキだね、プリティ」とか。 「な…

マグロであれ、仔牛であれ、なんであれ。

近所の魚屋で、マグロが特売になっていた。 店先には、朱赤のマジックでしたためられた「大特価マグロ!」のおおきな文字が、いせいよくおどり、業務用のアルミのバットに、マグロの切り身がどっさり山もりになっていた。 日本の魚屋さんのように、きれいに…

川のながれに身をまかせ♪

おきたらまず窓をあけ、ベランダにやってくる鳥たちのためにエサをやる。 それからひとしきり、ローヌ川のながれをながめる。 まるで、隠居したおじいちゃんみたいだけど、これがわたしの朝の日課だ。 季節をおしえてくれるのは、樹木や草花だけではない。 …

賢者の贈りもの、嵐のあとに。

6月もなかばをすぎると、スイスの短い夏のはじまりを告げる、ちいさな嵐がやってくる。それは、あっという間にやってきて、あっという間に去ってしまうのだけど、ちいさいからといってあなどれないパワフルさで、わたしたちをおどろかせる。 はじまりは、こ…

クゥックゥーのマダムと、般若ちゃん。

数日前から歯が痛みはじめた。 とにかく、ちょっと歯ごたえのあるものを食べると痛みはじめるので、フワフワの甘い菓子パンしか食べられない。ここ最近はまるでハイジに出てくる、ペーターのおばあちゃんのような食生活をおくっている。 わたしには、変な寝…

朗読とバッハ、耳を澄ませば。

陶芸家のジョエルが、花器ばかりを集めたちいさな個展をひらくことになった。 ジョエルの工房には、毎年いけばな仲間と花器を作陶するワークショップでお世話になっている。 「それならば、花を生けて展示したらどう?」 ジョエルの友だちで、いけばなを教え…