くららの手帖

ローヌの岸辺暮らし、ときどき旅

メインよりサイドが好き:コーニェ村日記(2)

2月5日(日)晴れ

朝、窓のそとを眺めてみると、あらためてコーニェが谷あいの村なのだなとおもう。山と山のゆるやかな稜線が交わる谷間の雪原には、もうすでにクロスカントリーをする人やそりで遊ぶ子どもたちが、散らばっている。

朝食のビュッフェは、ケーキやペストリーなど、甘いものが充実している。ブリオッシュのようなパン・オ・シュクルのような、丸くて小さなパンにカスタードクリームを詰めたものが、とても美味しい。朝食は国によって甘党と辛党に分かれる、と聞いたことがあり、その話の中でイタリアは甘党に属していたことを思いだす。

「スキー場は、あるにはある」

と教えてくれたNさん曰く、ゴンドラ駅までは歩いても行けるらしい。

日焼け止めを塗り、ヒートテックの上下に靴下、スキーウェアを着て手袋をはめ、サングラスと財布とスマホをポケットにしまって、地下の乾燥室に降りスキー靴を履いたところで、ヘルメットを部屋に忘れてきたことに気づく。

これだからスキーは、嫌なのだ。

嫌ならしなければいいのに、と思うだろう。わたしもそう思う。重いスキーを担いで(緩やかとはいえ)坂道を登るのはもっと嫌なので、ホテルの車にのせてもらってスキー場にむかった。

リフトの一日券は、33ユーロ。ゴンドラが一本と、二人乗りのリフトが二本。山頂からは二手に枝分かれしたコースが最終的にゴンドラ駅に帰ってくるという、シンプル極まりない設計のスキー場は「あるにはある」というNさんの言葉が、まさにしっくりくるものだった。

リフト乗り場の近くに小さなカフェが一軒だけあり、お昼はそこでパニーニを食べた。コッパと呼ばれるサラミとチーズをはさんで温めただけなのに、想定外に美味しくてびっくりした。スキーヤーが入ってきてはカウンターでエスプレッソを一息で飲み干し、店主と一言二言交わしただけでさっさと出ていくのが、イタリア的だ。

三本だけすべって、午後はスパでごろごろしてすごした。「あるにはある」というNさんの言葉には否定的なニュアンスが感じられたが、わたしにはこれぐらいがちょうどいい。良いカフェもあることだし、わたしはおおいにこのスキー場が気に入った。

夕ごはんは、羊のチーズのラクレットを食べた。ラクレットの機械が、スイスのものとちがって面白い。サイドディッシュの干し肉が、美味しい。そもそも普段からメインディッシュのラクレットより干し肉のほうが好きなぐらいで、干し肉を食べるためにラクレットを食べるといっても言いすぎではない。

この逆説的な感じ。

アフタースキーのためにスキーをするのと、ちょっと似ている。

(つづく)