くららの手帖

ローヌの岸辺暮らし、ときどき旅

愛の不時着:コーニェ村日記(3)

2月6日(月)晴れ

客室係いわく、客室の蛇口からでてくる水は全てスパとおなじ鉱泉水のため「飲んでよし、浸かってよし」らしい。ようするにエビアンやサンペレグレノが、蛇口をひねれば出てくるようなもので、ミネラルウォーターをペットボトルで買う必要もなく、客室でも温泉に入れるというわけだ。じつをいうとスパの『若返りの湯』は温水プールなみにぬるく、日本人には物足りない。客室でなら熱々の温泉に入れるかもしれない、というので湯船に湯をはり、朝風呂に入る。かなり熱めの湯をはったつもりだったが、入ってみるとやはりぬるい。外気温がマイナス十度くらいまで下がったのでそのせいかと思ったが、髪を洗おうとしたらきんきんに冷えた冷水しか出てこなくなっていた。

昼どきになり村に下りて行って、カフェでスペック(ベーコン)とポルチーニのクレープを食べる。木工クラフトにいろいろ可愛いものがあり、クラフトショップをのぞいてみたかったのだが、12時から15時まではお昼休憩でどの店も閉まっていた。荒物屋の軒先に出しっぱなしになっていたアンティークっぽい木鉢が気になり、ためしに値札をみてみる。70ユーロ、とまぁまぁ高価なのに出しっぱなしにしてあるということは、持ち去られる心配はない、ということなのだろう。お店が開いている時また来ようと、心にちかってホテルにもどった。

午後は部屋で本を読んですごす。わたしは『ナルニア国ものがたり』の第五巻『馬と少年』を読んでいるのだが、寝落ちを繰り返しいっこうに読み進まないのに対して、Rはここに来てから読み始めたアレクサンドル・デュマの『モンテクリスト伯』をもう半分読み終わっている。

夕方、スパに下りていくと一人旅のアジア系の女性が、ジャグジーのスイッチがわからず困っていたので教えてあげた。本人が一人旅だといったわけじゃないけれど、朝ごはんも一人だしスキーも一人でしているのをみかけたのだ。凛として旅慣れている様子が格好いい。家族連れやカップルがほとんどの中で、その姿は目をひいた。Rは「中国のスパイかもしれない」といったが、わたしは「北の恋人と待ち合わせしている、韓国人かもしれない」と思う。

二人ともNetflixの観すぎ。といわれたらたしかにそうなのだが、全くありえないわけでもなく眼が離せない。部屋にもどって再び『ナルニア』を開くも、さっきから同じ行を何度もいったりきたり全く頭に入ってこない。ナルニアへの冒険よりも、リアル『愛の不時着』(かもしれない)の行方が気になってしかたがない。

(つづく)