くららの手帖

ローヌの岸辺暮らし、ときどき旅

花もつ男

花もつ男の人が、好きだ。いや、ちがうな。花もつ男の人の姿を見るのが、好きなのだ。誰かを喜ばそうとしている人の姿をみるのが好き、と言いかえてもいい。

そういう意味では、もっているモノはケーキでもおもちゃでもいいし、男の人じゃなくて女の人だっていいわけだけれど、花と男の人という組み合わせは、格別だ。

たとえば若い男の子が、一本だけチョコンともっているのも、おじいちゃんが、スーパーの入り口で売っているチューリップの束に、リボンをつけてもらって手に提げているのも。

いつだったか青山でみかけた、花屋で抱えきれないほどの特大のブーケロンを受け取っていたスーツ姿の男の人も。

それぞれがそれぞれに良くて、しみじみ、ほれぼれ、いつまでも見惚れていたくなる。

普段から女性に花を贈り慣れているからか、照れも気負いもなくサマになってる西洋の男性ももちろんすてきだけど、ちょっと照れ臭そうにぎこちなく花束をもつ日本の男性の姿にもぐっとくる。

昨日、街でばったりJさんに会った。

Jさんの提げた買い物かごからは、水仙とチューリップの花束が顔をのぞかせていた。わたしがそれに気づいて、あ、というと、Jさんは照れ笑いを浮かべただけだったが、言わずともわかった。奥さんのNさんに、贈る花なのだ。

今日はバレンタインデー。

街に「花もつ男」が溢れる日だ。帰宅時間になるとあっちにもこっちにも、花を手に家路をいそぐ男の人たちが観測される。その姿をみるのがたまらなく好きなわたしは、その時間帯をねらって散歩にでる。

贈られる本人はその姿を見られない、というところがまたいいのだ。