くららの手帖

ローヌの岸辺暮らし、ときどき旅

上を向いて歩こう ♪:永住権をいただきに、ニューヨーク(4)

「上ばっかりみて歩いて、穴に落っこちないように」

わたしがニューヨークに行く、というと、母はそういった。

そういわれて、10才ぐらいのとき、母と妹と三人で、はとバスに乗ったことを思い出した。

あれは、新宿の副都心、だったとおもう。

ビルをみあげては、姉妹がかわるがわる方言丸出しで、

つぎはどこへいくのだとか、

このビルは何のビルなのだとか、

大声で聞くものだから、たまりかねた母が一喝したのだ。

「おのぼりさんって、バレちゃうでしょう!」

いま思えば、はとバスに乗っている時点で、おのぼりさんも何もないものである。

が、ある意味、母は正しい。

ニューヨークで、上をみあげて歩いているのは、みんなおのぼりさんである。

そして、あのあと東京で、妹は上野動物園のキリンに気を取られて、みずたまりで尻もちをつき、東京にいくために買ってもらった新品のピンクのスカートのお尻に、おおきなシミをつくることになったのだ。

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そのような母のありがたい忠告にもかかわらず、わたしは、天にむかってそそりたつ高層コンドミニアムを、人目もはばからず見あげていた。

それもただ見上げるばかりでなく、口をあんぐり開けて。

わたしは、ニューヨークでくらしはじめたばかりの友だちが住む、コンドミニアムを訪れていた。

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