くららの手帖

ローヌの岸辺暮らし、ときどき旅

夜はどの猫も灰色

友人のCさんが、女どうしの乾杯にピッタリなワインをもってアペロに来てくれた。猫のイラストがかわいいこのロゼワインの名前は、« La nuit, tous les chats sont gris »。

《夜はどの猫も灰色》というフランスのことわざで、意味は「夜は暗くてよく見えないからブスでも美人でもいっしょ」。もっと言うと「ベッドを共にするのに容貌は関係なし」という意味もあるそうだ。

男性が女性を口説くとき飲むには「どうなんだろう?」なネーミングだけど、お化粧がはげても気にせず、女同士さわぐ集まりにはぴったりのワインであることはたしかだ。

この季節になると毎年、アペロの機会が急に増える。

アペロというのは、夕ごはんの前にちょっとおつまみやお酒を楽しむ習慣。

自宅で家族だけでのアペロももちろんありだが、ヨーロッパは六月が学年末で卒業シーズンでもある。夏休みのバカンスに出かけてしまう前に集まろうというわけなのだ。

メンバーは会社の同僚や、学校のクラスメイト、アパートの住人どうしなどなど。大勢で集まるときはバーやレストランではなくて、自宅や公園に飲みものや食べものを持ちよるのが主流だ。

夕ごはんが始まるのが日本より遅くて20時くらいなので(スペイン出身の人たちだともっと遅くて22時スタートだったりすることもある)その前に一時間くらい、おしゃべりして解散ということが多い。

もちろん、そのまま夕ごはんに突入するケースもたまにあるし、おつまみだけでお腹いっぱいになって夕ごはんは無しになることもある。

いずれにしてもアペロのいいところは、さくっと気軽に参加できること。がっつり夜中までかかるディナーに比べると、胃袋的にも人付き合いの上でも、きわめてライトなところがいい。

ところがこの日のアペロは毎週一回いけばなをしている仲間たちと、場所はいつもお稽古している教会の集会所だったのだが、このあと九月までお稽古が休みでしばらく会えないこともあって、お開きになったのはようやく21時をすぎてからだった。

遅くなったことについてもうひとつ言い訳をすると、夜は22時ぐらいまで明るい夏は、21時をすぎても真昼のようで、時間の感覚が狂ってついつい夜更かしになってしまうのだ。

しかし、ここまで明るいと、

「夏のあいだは« La nuit, tous les chats sont gris »(夜には、どの猫も灰色にみえる)というわけにはいかないような気もするのだけど……」

わたしがそう言うと、

「酔っ払ってしまえば、たとえ不都合なものが見えたとしても、気にならないし忘れてしまえるでしょ?」

と、Cさんがワインを注ぎ足してくれた。

なるほど、ワインのネーミングの本意は、そこにあるのかも。

たしかに今これを書いている時点で、あの夜の「不都合なもの」に関しての記憶は一切ないのだから。

*夜、20時。三毛猫は三毛猫に、茶トラは茶トラに見える明るさです。