くららの手帖

ローヌの岸辺暮らし、ときどき旅

包む文化vs包まない文化。かざらないひとびとが愛する「スイスの国民的バッグ」とは?

夏休み。街を脱出するバカンス組がいるいっぽうで、あえて夏は街で過ごすというひとびとも少なくない。

とくに学校にかよう子供がいない家庭では、子供の夏休みにスケジュールを合わせる必要もないので、バカンスは季節をずらして安くゆったりすごす派がおおい。

スイス自体、中東などの国からの避暑地として大人気ということを考えれば、実はどこにでかけずともじゅうぶん快適に夏をすごせるのだ。

かくいうわが家も、例年夏は街ですごす派である。

夏のあいだは、残留組どうし、ディナーに呼んだり呼ばれたりする機会がおおくなる。先日も、友人たちが集まってわが家でディナーということになった。

「遅れてごめーん!」

と、30分ほど遅刻して登場したのは、アラフォー美女のC。車社会のアメリカ育ちで、公共交通機関で移動するのに慣れていないというCだが、帰りの運転の心配をせずアルコールを楽しみたいとバスでやってきたのがあだとなったらしい。

「待てど暮らせどバスがこなくって」

と、わが家のアパートの階段を息も絶え絶えに登ってくるのがみえた。いつも車だからあんまり歩かないの、と10cm越えのハイヒールでキメているが、今日のサンダルは一段とヒールが高い。

うるわしくブロウされた髪を揺らし、カンペキに並ぶ真っ白な歯を全開にした笑顔で、両手をさしだす。

「オフィスに転がってたワインなんだけど」

みれば左右それぞれに、むき出しのワインのボトルがぶらさがっている。

「え?まさかそれぶらさげてきたの?」

目の前の美女が、両手に酒びんさげて通勤ラッシュのバスに乗ってきたのか、と思ったら、可笑しくて笑いが止まらなくなってしまった。

でもまぁ、ぶらさげていたのがワインでよかった、と思い直す。ちょっと油断すると、しゅっとしたビジネスマンが、ネット入りのじゃがいもを人差し指一本でぶらさげて、つり革につかまっているような国なのだ。

ラッピングに注ぐエネルギーが、限りなくゼロにひとしい人々に当初はとまどった。

クリスマスや誕生日などの特別な贈り物は別として、基本的に「壊れないよう、汚れないようプロテクトする目的」か「運搬するためのいれもの」という二つの目的以外に包装は必要ないと考えられているようだ。

日本では、包装の大きな目的であるはずの「包み、隠し、見栄えよくする」という発想が彼らにはない。つまり、買ったものを他人にみられたくないから、とか、むき出しで渡すのは失礼だから、とか、三越の包装紙ならまちがいない、とかいう感覚がないのだ。

だから、自宅用の買い物なら、じゃがいもだろうがバナナだろうが、むき出しで持ち帰ることになんの抵抗もないし、ディナーに呼ばれて手土産にワインやチョコレートを持っていくにも、庶民派スーパーの使い古しの紙袋でじゅうぶんだったりする。

借りた本を返すだけでも、きれい目のブランドの紙袋に入れて返したりする発想は、理解されないにちがいない。いただきものを受け取って、あれ?このヨレヨレの紙袋見覚えがある、と思ったら、ずいぶん前にわたしがそのお宅に持参したものだったこともあるくらい。

個人的には、日本の「包む」文化は奥ゆかしくて、気づかいが感じられてステキだと思う。けれど、いっぽうでこういう無頓着さもまた、気楽なかんじがしていいなぁと思うのである。

根っこにあるのは「見た目を気にしない」おおらかさであり、「かざらない」ひとびとの素朴さである。

それは、スイス人のほぼ100%が所有するとおもわれる「国民的バッグ」にもあらわれている。なんのことはない、庶民的スーパーマーケットのエコバッグなのだが、街を歩くとかなりの確率でこのバッグを持っているひととすれ違う。

それだけならまぁ、エコバッグが浸透している昨今めずらしくもなんともないだろう。エコバッグというのは「買い物袋としてつかう」のがそもそもの使い道だと思う。つぎに、お弁当や習い事の道具をいれたり「サブバッグとしてつかう」のもわりとよくある使い方だ。

が、ここでは、これをメインバッグとして、堂々と使っているひとが結構いらっしゃる。教材など荷物が多い学校の先生とか、スポーツジムに着替えを入れていく人が使いたくなるのはわかるにしても、わりとみなさん普通に通勤バッグとして使っている。

ビジネスクラスに搭乗のビジネスマンが、機内持ち込みバッグに使っているのを目撃したこともあったりしたぐらいで、これはもう、まさに「国民的バッグ」と呼んで差し支えない状況といえるのではなかろうか?とやや強引に思う次第である。

海外のエコバッグってどうせオシャレなんでしょ?と思われるかもしれないが、実際そうでもない。そもそも、人々はコーディネートなんてまったく考えていない(と思われる)。たいていはこんなかんじ。

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*我が家のエコバッグ。二大庶民スーパーCOOPのもの。

「COOPバッグを普段使いするようになったら、あなたも立派なスイス人」と認めてもらえるとかもらえないとか、在住日本人のあいだではまことしやかな冗談が交わされる。ホントそんなんで永住許可が降りるならいいんですけど。。

最後にひとつ。

フランスパンをそのまま小わきに抱えて道を歩くパリジェンヌ的なものにはさんざん憧れたものだが、先日、バス停にてひとりの青年がフランスパンを抱えてバスを待っているのをみかけた。

さすがにサマになっている。

が、季節は夏。ぎらぎらと照りつける太陽に気温は30度を超えている。タンクトップ一丁といういでたちの青年。そして、フランスパンは青年の小わき、というよりは、脇にしっかりおさまっている。

食卓にて「今日のフランスパンは塩味が効いてるわね」なんてことにならなければよいが、と気をもんでいたのは私だけだろうか。。よそのお宅でだされるフランスパンに手が伸びなくなってしまった今日このごろである。

*チーズで有名なグリュイエール村にて。「メインバッグ」づかいしているおじさまをパパラッチ。二大庶民スーパーのもうひとつのほう、MIGROSのもの。

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