くららの手帖

ローヌの岸辺暮らし、ときどき旅

みどり色のドレスをきた女の子:永住権をいただきに、ニューヨーク(1)

ワオ!おめでとう!ようこそアメリカへ! ちょっと芝居がかった、大げさな調子でそういうと、口ひげをたくわえたその入国審査官は、差し出したわたしの”移民ビザ”に、ポンッといきおいよく、スタンプをおしてくれた。 事務的なやりとりが、淡々と無表情にく…

ロンドン、お茶の時間

巨大なスカラベに、猫のミイラ。古代文字に、ギリシャのつぼ。トルコ石がびっしりちりばめられた魔除けのブローチ。 おもちゃ箱をひっくり返したような、古今東西のお宝の数々を、朝からぶっとおしで拝見していたせいか、頭の奥がズーンと重い。 どうやら、…

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一滴の雨も降らない、かんかん照りが二週間ほどつづき、湖の花火大会が終わるころになると、こんどは夕立ちとかみなりが毎夕やってくる。 雨は、ひと夏ぶんの熱をはらんだ地面や、屋根や、木々や、空気や、人々の日焼けした肌に降り注ぐ。 一日、また一日と…

夏の終わりの、選手交代。

だしてあったクリーニングをとりにいった。 入り口で声をかけるとしばらくして、パステルカラーのシャツの森から顔をのぞかせたのは、いつものなじみの店員さんだった。 あ。 選手交代。 彼女のトースト色に日焼けした顔は、夏がおわり、街が「通常オペレー…

だれのものでもないわが道:フランスの、田舎で、週末を(4)

朝ごはんのあと、でかけた散歩の途中、「売り家」の札がかかった家をみつけた。 ひとの気配が消えて久しいのだろう。 そこだけ時間が止まってしまったような、しずかな空気を全身にまとって、その家はひっそりと佇んでいた。 「私たちの家も、ちょうどこの辺…

暮らしは、アートだ:フランスの、田舎で、週末を(3)

朝。 フランスの、田舎の、朝。 パンの焼ける匂いがして、目が覚めた。 石壁に閉ざされた部屋はうす暗く、気づかなかったのだけれど、太陽はとっくの昔に顔をだし、そとは陽の光にみちていた。 あわててとび起きて、洗面所で顔を洗う。水がキーンとつめたく…

バラ色の台所:フランスの、田舎で、週末を(2)

靴をみれば、性格がわかる 歯をみれば、育ちがわかる 手をみれば、女性の年齢がわかるのだとか。 そして、文章を読めば、人柄がわかるのだとも。 みせるつもりがなくても、人となりというものは、知らずにじみ出てしまうのだから、おそろしい。 台所も、その…

”Middle of Nowhere”からの招待状:フランスの、田舎で、週末を(1)

こんどの週末、田舎の家で、いっしょに過ごさない? フランス人の友人カップルから、招待状をうけとった。 フランスの、 田舎で、 週末を。 この言葉のひびきだけでもう、うっとり、とろけてしまいそうな私である。 ここ数日など、あんまり楽しみで、なんど…

ハトとワシ。

近所に住む、JさんとNさん夫婦のアパートに遊びにいった。 少女のようにかわいいNさんは、植物を育てる天才。 アパートは、いつ訪ねても草花がいきいきと繁茂し、E.T.をむかえにきたあの宇宙船のようである。 いっぽう、夫のJさんは、温厚な見た目からは想像…

あこがれの、熟練シュフ。

朝ごはんに、黄桃をきって食べた。 ちょっと甘みがとおかったけれど、シャキッとした歯ごたえとどうじに、甘酸っぱさが口いっぱいにひろがって、目が覚めるようだった。 夏。 スーパーマーケットに買い物にでかけるのが、ちょっと楽しくなる。 白いの、黄色…

キャンドルの木

「キャンドルの木」と呼んでいる木があります。 枝のさきっぽから、円すい形の白い花が、空にむかっていっせいに咲くと、それはまるで、おおきな燭台にたてた、無数のキャンドルに、灯がともったようにみえるのです。 6年前のちょうどゴールデンウィークに…

身におぼえ、あってもなくても。

「マダムsabaは、ご在宅でしょうか?」 朝8時きっかりにかかってきた、一本の電話。 ”深夜早朝の電話に、よいしらせなし”とはいうけれど、まさにそれは、借金とりからの電話でした。 「12月にご利用の、60フラン(約七千円)のお支払いが、おすみでないよう…

クスクスを、ボナペティ。

レラは、わたしの「クスクスの先生」だ。 はじめて会ったとき。 レラがモロッコ出身ときいて、わたしが「クスクスが大好きだ」と猛アピールしたのが、そもそものことのはじまりだ。 ほどなくして、クスクス鍋と、オリーブの木鉢と、おタマと、スパイスをかつ…

ホワイトデーのサプライズ?

世の中には、サプライズが好きなひともいれば、嫌いなひともいる。 すべての嗜好は、個人の自由だ、とおもう。 もんだいは、サプライズする人が「するか・しないか」を選べるのにたいし、される側にはまったく選択の余地が与えられていない、ということだ。 …

片思いのリモージュ

ひさびさに、恋に落ちてしまいました♩ 年にいちどの、カルージュのアンティークフェア。 ジュネーブに移り住んでから、ほぼ毎年のぞいているこの骨董市で、かならず立ちよるお店があります。 洗練されつつ、どこかあたたかみのある品々は、店主のカトリーヌ…

変人映画・愛。

変わってる人ですね、っていうのは、ほめ言葉じゃないかも。 そう気づいたのはもうだいぶいい大人になってからだ。 ユニークな人、とか、おもしろい人、とか。 いい意味が含まれている場合ももちろんあるけれど。 むしろ「こまった人ですね」とか「つきあい…

ちびまる子、でいられた日々。

実家でさがしものをしていたら、小五の日記がでてきた。 まず、字が汚くてびっくり。 それから漢字の少ないことにあきれてしまった。 が、読んでみると、これがなかなかおもしろい。 子どもらしいすなおな日記だなぁ、と思って油断していると、ひやっとする…

「unpretentious」で、いいね!

土よう日。 朝、台所にいってみると、食べ物がないことにきがついた。 ちょうど天気もよかったので、歩きがてら湖まで朝ごはんを食べに行こうということになった。 湖までは、ローヌ川沿いに歩いて3,000歩ぐらい。 (最近、一日一万歩をめざし、iphoneの万歩…

終のすみか、ではなく。

ドイツ人の友人夫妻ミハエルとサラが、「リタイア後の家を、ついに見つけた!」というニュースをもって、遊びにきてくれた。 ジュネーブには、かれこれ30年以上暮らしているふたり。 ミハエルが去年リタイアして、家を探しているとはつねづね聞いていたのだ…

もみの木のブローチ

ふだん、アクセサリーもつけず、洋服もシンプルな飾り気のないものばかり、というIさんのセーターの胸もとに、そのブローチを見つけたのは、女ばかりで集まったクリスマス会でのことでした。 クリスマス会、といっても、ドレスコードは普段着。 教会の集会所…

ジコシュチョーに、胃もたれ。

ジュネーブの冬といえば「霧」。 アパートの下を流れるローヌ川も、冬の朝は、濃いミルク色をした霧のスープの底深くにしずんでしまいます。 町中がすっぽり冷蔵庫に入れられたみたいなこんな日は、きまって煮込み料理がたべたくなります。 などと思っていた…

金を、継いで。

日本には、KINTSUGIというすばらしい習慣があるのですね。 そういってわざわざ国際電話をくれたのは、シドニーに住むオーストラリア人のNさんである。 KINTSUGI? さびついた脳内ローマ字日本語変換は、なかなか変換候補をみつけてくれない。 あ。 金継ぎ、…

アントネッラさんの、路地裏オステリア。ヴェネツィア、つかの間アパート暮らし

夏の終わりのヴェネツィアは、アメリカ人観光客だらけ。 経済的に幅を利かせていいはずのアジア系や、地理的に有利なはずのヨーロッパ系は、いったいどこ? そう首をかしげたくなるほど、聞こえてくるのはアメリカ英語ばかりである。 アメリカ英語が苦手なの…

救いがたき女たちの通り。ヴェネツィア、つかの間アパート暮らし

アサリのだしと、青々しいフレッシュな香りのオリーブオイルが、たっぷりからまったモチモチの手打ちパスタ。 スパゲッティ・ボンゴレを口に運びながらわたしは、いつになく、ふかーく、心から、夫に感謝しているところである。 ジュデッカ運河をのぞむ、ザ…

エイミーさんのガラス。ヴェネツィア、つかの間アパート暮らし

旅にでかけたら、あそことここに行って、これを見て、あれを食べて。もりだくさんの計画と下調べをして、朝から精力的にうごきまわって、目一杯旅を楽しむ。 むかしは、そんなエネルギーがあったけれど、いま同じことをしたら病気になって倒れてしまうかもし…

裏窓の真珠夫人。ヴェネツィア、つかの間アパート暮らし

グッゲンハイム美術館の裏手にある、静かな住宅街に借りたアパートには、最上階にちいさな屋根裏風の小部屋がついている。 居心地のよさそうなリビングルームに、ダイニングキッチン、メインベッドルームだけで私たち夫婦二人にはじゅうぶん。 この屋根裏部…

義理のままはは。

まったく自覚はないが、いちおう私、ステップ・マザー(つまり、継母)なのである。 出会ったときには、とっくに成人していた、というのもあるし、遠くアメリカで暮らしているP君とSちゃんは、わたしなどよりよっぽどオトナで、しっかりしているからというの…

トレンチの魔法。映画「クロワッサンで朝食を」が教えてくれる、ファッションのちから

八月だというのに、このひと月ほどトレンチコートのことが頭から離れず、困っています。トレンチコートが欲しくてトレンチ探しをしているから、ではありません。 七月の終わり、入院中に観たこの映画。 「クロワッサンで朝食を」のせいなのです。

センス・オブ・ユーモア。チョコレート嚢腫の腹腔鏡手術〜海外の場合

ユーモアのちからって、すごい。 泣きたくなるような状況も、ぶつける先が見つからない怒りも、ちょっとした冗談で気持ちが楽になることってあります。 おもえば、職場のままならない人間関係も、仕事の壁も、プライベートな悩みも、ユーモアに救われたこと…

良くも、悪くも、ホンモノ

「今日の夕ごはんは、ブラスリーリップを予約しておきました」 パリで夕食をともにする約束をしていた、友人夫婦から連絡がはいりました。息子さんがパリに住んでいて、お店をいろいろ知っているからとお店の手配をかってでてくれたのです。 ブラスリーリッ…